サマセット7

特捜部Q キジ殺しのサマセット7のレビュー・感想・評価

特捜部Q キジ殺し(2014年製作の映画)
3.5
特捜部Qシリーズ第二弾。
監督は前作「特捜部Q/檻の中の女」に続きミケル・ノルゴート。
主演はシリーズ通して「天使と悪魔」「イディオッツ」のニコライ・リー・ロス。

デンマークはコペンハーゲン市警察の未解決犯罪専門部署、特捜部Q。
元殺人課の暴走刑事カール(ロス)とアラブ系移民出身のアサドのコンビに、秘書ローセと猫キャットが加わり、一応部署としての体裁が整ってきた。
そんな中、元刑事の老人がカールに20年前の双子の殺人事件の再捜査を依頼し、その翌日に自殺してしまう。
カールが調査を開始すると、すでに解決済みのはずの事件に不審な点が浮かび上がり…。

デンマーク産世界的ベストセラー・シリーズの映画化第二弾。
原作者はユッシ・エーズラ・オールセン。

ジャンルは、ミステリー、サスペンス、刑事バディもの。

今作の謎は、20年前何があったのか?
重要な関係者と思われる謎の女の回想と、特捜部Qの面々が地道に突き止めていく事実により、徐々に真相があらわになっていく。

大ヒットした原作だけあり、ストーリーに見飽きることなく、ぐいぐい惹き込まれる。

北欧ミステリーにありがちな、人間のおぞましい面を露わにする展開は、今作でも満載。
語られる真相は、十二分にサイコだった前作にも増して最悪!!!!なもので、嫌な気分になること確実である。
性描写や暴力描写もあり、苦手な人は注意を要する。

シリーズものとしての、キャラクター描写が今作の最大の見どころだろう。
特にカールは、前作にも増して、仕事への過剰な依存と暴走を見せる。
家庭や他人の迷惑、ルールさえ顧みないその依存っぷりは、正常な日常生活に支障をきたしているという意味では、完全に病気である。
彼をそこまでさせるモチベーションは、どこから来ているのか?
何のために彼は戦うのか?
終盤に明らかになるカールの刑事としての動機は興味深い。
さて、その動機は彼の行動の正当性を客観的に裏付ける理由たり得るか?
それとも、彼の認知の歪みを自己正当化させるために、用意されたエクスキューズに過ぎないのか?
あるいは、その両方か?

事件関係者が悉く抱える深い闇が、どこから来ているのか、という点も含めて、人の心のままならなさは、今作のテーマかもしれない。
カールの事件へののめり込み、支配される者、支配する者それぞれの心理状態など、人間のイヤな部分が執拗に描かれ、直視させられる。
特に複数人の人物の嗜癖や関係性、欲望が、互いに作用し合って、結果的にとんでもない事態を引き起こすあたり、非常にリアルである。

もう1人の主人公アサドは、今作ではひたすらカールに振り回されて苦労している印象。
前作にかろうじてあったコミカルな部分は、今作では減退気味か。
秘書ローセと猫キャットについては今作では顔見せ程度。今後に期待という感じだろうか。

謎解きの面白さという意味では、前作に続き途中からある程度読めてしまい、今作もさほどでもない。そちらは期待しないが吉だろう。
真相と解決に至るハラハラドキドキのサスペンスは引き続き安定して楽しめた。

カールの人間的成長という意味ではどうだろうか。
すくすく成長してしまってはシリーズが成り立たないわけだが、果たして。
ラストは希望を残していて、印象的だ。

前作に続き、安定して楽しめる北欧刑事バディものシリーズの一編。
特捜部Qの面々の今後には興味を惹かれる。
すでに8作を数える原作と共に、追っていきたい。