亘

素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店の亘のレビュー・感想・評価

3.5
【サプライズの旅程は変更不可?】
貴族ヤーコブは、自殺願望を抱いていた。何度も自殺しようとするが上手くいかない。ある日彼は"旅立ち"を手助けする旅行代理店を訪れる。彼は"サプライズコース"を選択するが同時にそこで素敵な女性に出会う。

安楽死が合法のオランダで製作された、"死ぬ権利"をめぐるブラック(ラブ)コメディ。その旅行代理店の顧客は何らかの自殺願望があり、ある意味自殺ほう助をお願いする人々。そのコースには、「サプライズ」や「愛する人に看取られる」というコースがある。どうやら自殺とはいっても自然な形での旅立ちを願う人々が利用するよう。ただその代理店は"違法"らしく一度契約すると契約破棄はできない。この点は"死の自己決定権"という問題を提起しているようにも感じる。

ヤーコブは父の死以来感情が抱けなくなり、それが苦痛で自殺願望を抱いていた。何度も彼は自殺を試みるけど毎回何らかの形で失敗していてなんかコミカル。唯一の近親者母が亡くなり広い屋敷で一人暮らしすることになる。邪魔が減ったことで全財産の寄付や屋敷の売却など旅立ちへの準備を進めていたが、代理店の棺ショールームで客アンネに出会う。それまで恋人がいなかったヤーコブは、アンネに興味を持ち彼女の職場まで足を運んだりする。一方のアンネもヤーコブの屋敷の執事から彼の生い立ちについて話を聞く中でヤーコブに興味を持っていく。初め距離のあった2人が浜辺でダンスをするシーンは、ほほえましかった。

ただ"客同士の接触禁止"が代理店のルール。ヤーコブとアンネが会うのはNGなのだ。それを無視してでもアンネに会いたいヤーコブは、遂に旅立ちの延期を求める。ただ、日程の変更は不可能である上にヤーコブはアンネに接触したということで規定に違反している。ここから繰り広げられるカーチェイスは、それまでとは大きく展開が変わって見入ってしまう。さらにアンネの正体が明らかになると作品の雰囲気は徐々に変わっていくし、アンネの身の上話や浜辺でのダンス動画流出の伏線が回収されていく。

終盤アンネの正体がヤーコブにばれてから2人は吹っ切れたように見える。ヤーコブは、ようやく感情を取り戻し生きる希望を見出し、ずっとひとり身だったアンネも父に直談判をする。この展開はラブコメっぽい。きっと「素敵なサプライズ」とは、サプライズコースのことよりこの2人の出会いを指していたのかもしれない。その後の代理店の依頼者は意外だった。ヤーコブの執事ムラーは屋敷のバラを可愛がる働き者だったが、いつも亡くなった妻のことを考えていた。。ムラーは見た目には元気だし異常ないのだが、遂にムラーは妻に会うために旅立ちを決心したのだ。一見ムラーは死ぬ必要なさそうだけど本人は死にたがってるから旅立たせる。これはまさに"死ぬ権利"をよく表す場面だったと思う。

ただその後のヤーコブの元弁護士をめぐる2人の意地悪な会話はシュールでブラック。まさにブラックコメディの今作にふさわしい終わり方だった。

印象に残ったシーン:カーチェイス。アンネの正体がヤーコブにばれるシーン。

余談
原題"De surprise"はThe Surpriseという意味です。
亘