がんちゃん

ダンケルクのがんちゃんのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.0
本作は「戦争映画」ではない。
『ダンケルク』で描かれるのは、人間の残酷さや反戦のメッセージではななく、「撤退」、つまり生き抜くこと。観客は1人の兵士として、名も無き若者達と共に戦場へ放り出される。主人公の名前や生い立ちなどは不要。何故ならここは戦場であり、主役は観客だから。
ノーランの提唱する「究極の映像体験」とは、予備知識無しで誰もが楽しめるようなテーマパークのアトラクションに近いものではないだろうか。
ただし、3Dメガネをかけたり椅子を揺らしたりせずにあくまで映像のみで没入感を与える画作りを目指したという心意気に僕は敬意を表する。

■時間の魔術師ノーラン■
映像表現に加え、時を操るスタンド使いとしての顔も持つMr.ノーラン。1体のスタンドに2つの能力…ボスキャラの風格が漂う。
今回は陸海空3つの異なる時間軸を同時進行させることで、観客に休む暇を与えない。99分という丁度良い上映時間もあり、YouTube世代の若者たちもきっと集中して観ていられたことだろう。
1つのシーンを異なる視点で繰り返し描く手法により、観客は「ダンケルク」という戦場を1人称のまま3人称で捉えることができる。ちょっと編集が分かりにくかった気もするが、この辺昔のガイ・リッチーならクールにやれそう。
極めつけは上映開始と同時に時計の針の音がカウントダウンを開始する絶望仕様。
ノーラン:「ハンス・ジマーにスコア制作を依頼する際に、私が普段持っている懐中時計を渡したんだ」
ってあんた英国紳士かっ!
…英国紳士か。

■ゴア描写がゼロ■
戦場を「リアル」に描くのであれば、手足が吹っ飛んだり友達の腹から腸がはみ出しているのを必死で元に戻そうとする兵士などの描写があって当然な筈だが、本作では流血表現が一切ないので女性も安心。
これは『ダークナイト』も同様だった。レーティングという大人の事情もあるだろうが、ノーランは「映画は共有体験」だと語っている。皆で観るから感動が増すってこと(なのでヘッドセットのVRはお嫌いらしい)。
つまりこの英国紳士はデートムービーとしての運用を想定して本作のゴア表現を排除した、とも考えられる(真顔)。時計の音も、彼女の不安を恋のドキドキと錯覚させる「吊り橋効果」を狙ったものだとすれば…とんでもない変態紳士だな!
ただ、本作は流血描写抜きでも十分に戦場の過酷さを描写できていたのでは。敵兵を映さないことで、何処から攻撃を受けているか分からない恐怖。「息をしないと死ぬ」と「息を止めないと死ぬ」とが同時に襲ってくる状況。ジャムパンなんか食ってる場合じゃあないぞ。

■ミリオタ歓喜■
本物のスピットファイアとメッサーシュミット(スペイン製だけど)のドッグファイトが観られるとは…。
中学時代、パイロット志望の井上君に「コンバットフライトシュミレーター」をジョイスティックごと貸してもらい、Windows98に張り付いていたあの黒歴史、いや白歴史が蘇る…周囲が部活でボールを追いかけている時間に、帰宅部の俺はスピットファイアやムスタングを駆りヨーロッパの空でドイツ軍のケツを勇猛に追いかけていた。
その後井上君はなぜか大手海運業界に就職したが、俺は『ダンケルク』で今も空の上いるので俺の勝ちってことだな。
正直、コックピット越しの映像だけで2時間やってくれても構わなかった。
ただ、本物なだけにド派手なアクロバットは難しかっただろうし、興味ない人には退屈かも?

■全員英国人俳優■
トム・ハーディは『ダークナイト・ライジング』、『マッドマックス』に続きマスク野郎を演じている。次回作は『ヴェノム』。ジム・キャリーを越えて「世界一マスクに愛された男」としてギネス認定が近い。イケメンなのに(笑)

日本ではIMAX70mmフィルムを上映できる場所がないので、高い料金で偽IMAXを観るくらいなら2Dでいいんじゃない?
脳内補正をかけた「俺MAX」仕様で十分楽しめましたよ。
がんちゃん

がんちゃん