しゃび

ダゲレオタイプの女のしゃびのレビュー・感想・評価

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)
3.5
生と死、愛と執着、運動と静止、永遠と時間。
黒沢清はその境界線を極めて曖昧なものにする。

カットとカットを横断するアナログ式のストップウォッチの音は、本来切断されていることが明白なものですら、その境界線が極めてゼロに近いことを実感させてくれる。

フランスで撮られた映画だが、監督の他の作品よりも、より日本映画と向き合った作品になっているように感じる。人が幽霊になるのか、はたまた幽霊としてそこにいるのか。この辺りの和製ホラーと洋ホラーとの対比とも取れる構図も興味深い。

主であるステファンの独りよがりな愛の形とマリーの「献身的」であることを美徳とする姿勢も、なんだか古来の封建的な日本の家制度を思わせる。

また、日本だけでなくフランスにおいても、監督のロケ地の選び方は秀逸だ。何度も登場する古い屋敷のあの玄関や庭、湖畔。各々の場所と起こる出来事の組み合わせも最高である。起こるべくして起こると言ってもいいほどのフィット感。全てにおいて安心して観ていられる作品に仕上がっている。

しかし、、、
安心はするのだが、何かが引っかかる。

もしかしたらそれは、いつになく作品が綺麗にまとまりすぎているからかもしれない。ジャンル映画としてのホラーとラブロマンスの融合。そして特徴的な黒沢話法もそのなかに自然に溶け込んでいてとても気持ちがいい。だが、そんなことをサラリとできてしまうことくらい、こちらはとっくに認識済みである。

黒沢監督は日本を代表する映画監督の1人。
でも、巨匠に成り下がることはして欲しくない自分がいる。ゴリゴリとした質感の映画を欲している自分がいる。

この映画を観て、そんな複雑な気分になった。



ネタバレ↓

車のスピンと湖畔という組み合わせで、いとも簡単に映画から人を消し去ったアイデアには、流石に驚いた。今まで、散々人を消し去ってきた監督であるが、これは名消滅シーンの一つではなかろうか。
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