茶一郎

グリーンルームの茶一郎のレビュー・感想・評価

グリーンルーム(2015年製作の映画)
4.2
「はじめまして、【暴力の世界】。」

 草原に突っ込み、その緑の草木を断ち割るように停車する車。『ブルー』の次は『グリーン』と来て、この緑の世界が黒い血によって染まる暴力の世界になった。

 車に乗っている主人公たちは、The Ain’t Rightsというパンクパンドで活動している。彼らはネオナチが巣くうライブ会場で「ファシズムはパンクの敵だ!」と言わんばかりに「Nazi Punks Fuck Off」を歌い、ネオナチ集団(ネトウヨを数100倍怖くした奴ら)を敵に回してしまう。パンクvsネオナチの対立、しかし暴力の発端はココではなかった。

 息もできないほどの95分、主人公たちはライブ会場の楽屋「グリーン・ルーム」から身動きができなくなってしまう。出たら死ぬ、出なくても死ぬ。これには「あなたも【部屋】から出よう」なんて言えない。ジャックくんもこの部屋からは出たくないよね?
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 グサッ、グサッ、腕プラーン、腹パカー、武器は基本刃物なのでグサッグサッグサッ、これ本当にPG12の描写なのか。
『ブルー・リベンジ』ではとてもネチっこい復讐劇の復讐劇、やり返し劇を見せたジェレミー・ソウルニエ監督だが、今作でも分かりやすい対立構造、シンプルな舞台設定である密室におけるいわば「籠城スリラー」やり返し劇を見せきる。
今作の「やられて」「やり返して」の一部始終は、攻撃と守備があるゲームのような分かりやすさだった。そして、このゲームに勝利するには、実にロジカルな戦略を取らなければならない。前作と同様、この暴力籠城スリラーは混沌としているのと同時に、頭脳戦の要素が強かった。

 特に、今作での敵チームにあたる「ネオナチ」の描写が印象的。今作のネオナチは、過激な政治集団というより統率の取れた強豪チーム、信仰を利用して主人公たちを追い詰めるどちらかと言うとヤクザに近いかもしれない。「え?そういうやり方で警察を騙すの?」など非常に面白かった。主人公たちが、そのネオナチ性の裏をかいて勝つのも、この「パンクvsネオナチ」の闘いを上手く利用する見事な戦略性だ。

 高橋ヨシキ氏に言わせれば「とても斬新で素晴らしい暴力表現(特殊効果)」「現代の暴力描写の新基準になる」らしいが、私には鮮烈すぎて目を塞ぐことしかなかった。
『わらの犬』ならぬ、今作は犬映画でもあるのでそこには注目されたい。
何より、アントン・イェルチンに哀悼の意を表します。
茶一郎

茶一郎