チッコーネ

王の運命 歴史を変えた八日間のチッコーネのレビュー・感想・評価

3.7
「家族関係を何より優先」というハリウッド的思考に支配され、毎度のごとくお涙頂戴に逃げる韓国映画においては、かなり新鮮に映るハードな父子相克物語。
実話ベースで、朝鮮王朝第21代王・ヨンジョとその息子・チャンホンとの間に生じた、壮絶極まりない「米びつ事件」を描いている。
孤独な王の責任、誇り、そして理想が言動の基盤となってはいるものの、父・ヨンジョが権力の掌握により性格の偏りとエゴイズムを亢進させていたこと、また老論派と少論派の激しい対立が二人の背後に蠢いていたことが、無理なく伝わってきた。

舞台美術や衣装の美しさ、史跡ロケが相俟って、歴史物としての格調はきちんと担保されている。
狂気を滲ませたら若手では右に出る者なしのユ・アインは、やはり表情が良い。
『ベテラン』でのサディズムとは対極にあるマゾヒズム表現に身を投じ、新境地を示していた。
また宮中の女性たちの描写に、充分な時間がかけられているのも好ましい。

終盤にはチャンホンの息子であるチョンジョにも、見せ場が与えられている。
彼には、ヨンジョの跡を継ぎ第22代朝鮮王になった際、開口一番に「私はサドセジャ(チャンホンの封号)の息子だ!」と発言したと言う、情念の籠ったエピソードも残されている。
そのチョンジョを「米びつ事件の賛否から分裂した老論の一派が、毒殺」という説もあるのだから、王政はどの国も本当に血生臭い。