りりー

未来よ こんにちはのりりーのレビュー・感想・評価

未来よ こんにちは(2016年製作の映画)
4.3
監督がミア・ハンセン=ラブで、主演がイザベル・ユペール!わたしのための映画じゃないか。とっても良かった。

冒頭に提示される穏やかな墓地が象徴するように、死とは止まることだ。それを恐れるように、ナタリーは劇中で常に歩き回っている。カツカツと忙しなく、ときには乗り物で、一ヶ所に留まることを避けるように。腰を落ち着けて深く思考する、といった印象がある哲学教師の姿と、彼女の姿はなかなか一致しない。けれど、彼女が常に本を持ち歩き、どこでも読んでいることを考えると、彼女はどこにいても、いつでも一人になれるということなのだと思う。それは決して悲しいことではない。だって人生は孤独な旅だから。偶然誰かと出会ったとしても、必ず別れは訪れ、また孤独に歩き出さなくてはならない。子供の独立、死ぬまで一緒だと思っていた夫の浮気・離婚、母の死と、ナタリーには別れが次々と襲ってくる。よすがである仕事さえ、時勢に遅れているとして危ぶまれる。誇らしさとともに淡い感情を抱く教え子は、賛同できない(過激、というよりはナタリーの信念とは異なるということ)思想へと情熱を傾け、愛する女性と家庭を持つ。ままならないことばかりの毎日で、それでもナタリーが歩き続けることができるのは、孤独であることを恐れないからだ。孤独こそが自由なのだと、知っているから。そんなナタリーの姿は、しなやかで美しかった。

一つ一つの出来事を掘り下げたならば、もっと抑揚があるドラマティックな作品になったであろうに、頑なにただ過ぎ行くものとして描いていくミアの姿勢は本作でも変わらない。だからこそ、積み重ねていく日常の中でのなんてことのない描写が素晴らしい。ナタリーが会いに行くと甘える母の姿、夫が本棚から自分の本を持ち出したことにナタリーが憤慨する姿、授業や葬儀で引用するフレーズ、教え子への控えめな視線、寝室で泣く姿、娘が突然泣き出す姿、勝手に自宅へ入った夫とのやりとり…。どの登場人物も、この映画の中で確かに生きていて、しかもなんだか身近に感じられるのだ。

そして最も心打たれたのがラストシーン。魔法が宿っているとしか思えない。ナタリーが子供をあやしている姿を捉えたカメラがゆっくりと引いていき、音楽が流れる。ただそれだけなのに、どうしてあんなに美しいのだろう!ナタリーにも、子供にも、同じように未来がある。また埋まり始めた本棚と、かすかに聞こえる家族の声と、甘く流れる『Unchained Melody』。とっておきの人生讃歌だった。
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