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親友のカミングアウトのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

親友のカミングアウト(2015年製作の映画)
4.0
この映画は形容するのがめちゃ簡単。「リアル・コミカル・さわやか」以上。また、どえらいそのまんまの邦題をつけましたな。カミングアウト前後に起こりうる「あるある」をぎゅっと詰め込んだ素敵な作品です。

所謂「あるある」でそんなにドラマチックではない代わりに、なんともリアル。カミングアウト前のアダムがお節介に困ったりちょっとした会話が引っかかっちゃう感じ、逆に後はお友達たちが会話に困りギクシャク。周囲の反応、特に両親との会話時のアダムの返答一言一言のなんと正直なこと、うーん、そう答える以外ないわなぁとめちゃくちゃ刺さりました。NETFLIXでは、全米を震撼させた元NFL選手のカミングアウトの舞台裏をドキュメントしたリアリティ番組が配信されていますが、映画である本作のほうが断然リアルでした。やっぱりリアリティ番組は台本あるんよね、きっと。

おそらくクスっと笑う感じのイメージで脚本は書かれているのだと思いますが、主演のエヴァン・トッドのコメディセンスが素晴らしく、思わず吹き出してしまうところがいっぱいありました。間の取り方、表情や口調のコミカルさが絶妙です。すごく緊張感のある場面で噛ましてくるエルトン・ジョンのくだりには反則。

そしてとっても爽やか。反応はそれぞれでも、なんだかんだみんないい人。友情が壊れる瞬間思わず「あー...」と声が出ちゃいますが、あれはどっちも悪くないので不快感が全くない。観ていてとても心地がよい映画です。主人公自体も自分をよく理解し自己像が整理されているのも爽やかな印象を残す要因だと思います。自分の適性に合った仕事をしていて、オフの時にはお友達とスポーツ観戦などでダラダラするのが好き、そして欲しい・足りないものはパートナー。そのためには勇気を出して踏み出さないと... 自分がどうしたいのかはっきり自覚出来ているので、その行動に素直に応援ができます。

前々々々々回レビューした「フィリップ、君を愛してる!」は一言でまとめると、カミングアウトすれば自分のパーソナリティの問題が全て解決され幸せになれると勘違いし、自己の抱える問題と向き合うことを放棄し転落していった哀しい男の物語でした。当たり前だけどカミングアウトは人生の万能薬ではないしそれで自動的に幸せになれるわけでもない。本作でそんなカミングアウトの落とし穴に気づいたのは実はアダム本人ではなく親友のクリス!カミングアウトして間もなくランチ中にアダムは"I'm happy."と言いますが、実際にはカミングアウト後彼が決して幸せになっていないことを見抜いたクリスはすぐに仲間に"He's not happy!"と力説して協力を促し、アダムをこの落とし穴から救い出すことになっています。なんとも素敵なバディ映画です。
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