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ウインド・リバーのSSDDのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.1
■概要
極寒に閉ざされ雪深いネイティブ・アメリカンの保留地ウインド・リバーで、少女が遺体で見つかった。
この寒冷地を理解しない余所者のFBI捜査官が派遣されるが、孤立無縁の状態。
死体発見者でもある地元のハンターを加えて、すべてを奪う土地で捜査を始める。

■感想(ネタバレなし)
雪は一見白く昼には輝くが、道を閉ざし、命を奪い、形を変えて跡を残したり消し去ってしまう。そんな厳しい環境のサスペンスですが、想像以上に命や人の尊厳を強く扱う作品。

人生で自分が想像もしない言葉が強烈に印象に残ったというのが正直な感想。
映画を観るという醍醐味でもある自身の中に創造できなかったことをひとつまた得ることがあったなと。

ハンターとして演じるジェレミーレナの無骨で雪国での生きてきたかのような演技は迫真だったし、心が死んだようで常に燻り続ける想いを持つ人間を深く描いていました。

また対するは捜査官のエリザベス・オルセンはマーベル系しか印象になかったのが覆るほどでした。何も理解できておらず、適用できているかも怪しいのに意志を強く持っている…一見なんの力もないかのようで最も必要な素質を持つ感じが素晴らしかった。

なぜか躊躇していて寝かしていましたが素晴らしい作品でした。
少し気になる点はあるものの、この映画らしい乾いた感じがそれも良かった気がします。












■感想(ネタバレあり)
・心に残る言葉
娘を亡くしたハンターが、娘を亡くしたばかりの親にかけた言葉が衝撃的だった。

"ある時遺族セミナーに一回だけ行き、そこでカウンセラーに言われた。言い方もあるかも知れないが忘れられない。
『悪い知らせといい知らせがある
悪い知らせはあなたが娘を亡くしたことに代わる何かは人生で見つからない。
いい知らせは痛みを忘れなければ、あなたの娘は生涯あなたの心で生き続ける』
時は癒してくれるんじゃない…痛みは慣れる。痛みから逃げれば娘は消える、初めての一歩も最後の笑顔も全て…だから苦しむんだ"

娘を亡くしたばかりの人にかける言葉なんて私には見つからないが、"苦しめ"と言うことがひとつの選択としてあることなど浮かびもしなかった。
この映画の没入観と乾いた印象を受けながら、引き込まれたのはこの台詞の存在は大きかった。

・不快な人間
今後も経済が苦しくなり、詐欺から強盗といった短絡的な行動に出る人間がいて深く考えもせず実行し、他人の命を奪うかも知れない。劇中でも犯行の一人が自分が苦しんでいるから人から奪ったと漏らす。
自分が苦しければ他人から奪うのだろうか、あまりにも人間という知性を持ち合わせているとは思えない。
そんな人間はいくらでも世の中にはいるだろう、犯人たちが銃撃戦を繰り広げ、狙撃で射殺されていく様は、無念を晴らしていく場面として素晴らしいかった。
どこから撃たれるか分からない恐怖の中、処刑されるのは等しい罰に感じられる。

最後に逃げ出した男をハンターは死んだ少女と同じ条件で裸足で10キロ雪原を走り車道に出て自由を得ろと課すが、犯人は理解できないといいながら哀れに死んでいく様は勧善懲悪だった。

・ネオ・ウェスタン
実際に存在する土地で産業もなく娯楽もない。他殺でなければ人員の少なさからきちんと捜査されることもなく、レイプなど多発し、閉ざされ司法で守られない恐ろしい土地。それがノンフィクションであることで実際の事件として完全に紐づくものはないが、なんとも恐ろしい事実。
そんな土地で自然による淘汰をされるかに最後の罪人を委ねる、ハンターの姿はまさにウェスタン。

・総評
催涙スプレーをかけられそれでも犯人を執拗に追い始まるガンファイトや、寮での犯人たちとの交戦など、少ないところで必要なアクションだけと作り込みが素晴らしく。
単純な犯罪の内容にも関わらず、深くヒューマンドラマを描きながらサスペンスを紡いでいる素晴らしい作品でした。

しかし雪原の撮影は本当に大変だなと、足跡や車の痕跡について本作は取り分け細心の注意が必要とされるため、どうやって撮影位置を決め、物を配置していったのかと疑問と、失敗すると撮り直しもかなり厳しいのもあっただろうなと思うと尋常じゃない情熱を持って作られた作品だと思いました。
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