♪ とても陽気に 哀れな話なのに
とても弾んで 笑って 帰ってゆく
渋いなあ。
現代の西部劇と定義したくなるほどに渋いですなあ。
短絡的な兄と真面目な弟。
経済的に追い詰められた彼らは銀行を襲う計画を立てた。そして、もう一方の軸となるのが、彼らを追うことになる保安官。定年間際の最後の奉公として身を削る…という物語。
全体的に乾いた印象の筆致です。
でも、ビジュアルの密度はきめ細やかなので、すごい奥行きがあるんですよ。舞台がアメリカの西部ゆえに色合いは乏しいんですが、とても鮮やかに映っているんです。
これが本当のテキサスなんでしょうか。
ジリジリと焼けるような暑さと、それでいてカラッと乾いた感じ。フロンティア精神とやらが掻き立てられるのも分からないでもない…かもしれない雰囲気。
また、視点が白人目線だけじゃないんです。
西部劇の悪役と言えば乱暴な悪漢…という印象があるんですけど、本当の悪は原住民から土地を奪った白人たち。現代で言うならば、それが“銀行”になるんですね。
だから、それを風刺するかのように。
彼ら(銀行)の立て看板が何度も出てきます。
「お金に困ったらいつでも貸しますよ」という一見優しそうなメッセージが。
でも、その裏では強かな顔があるんですよね。
返せなかったら、いや、寧ろ返せないことも知りつつ、いかに儲けを最大限にできるか…という視点で債務者たちを品定めしているのが銀行。お金のプロフェッショナルです。
勿論、法的には問題ありません。
でも、強きを助け、弱きにつけ込む…そんな姿勢が褒められるのかと言うと…かなり微妙な話だと思います。その辺りを遠慮なく描いた本作は、色々な意味で胸が痛くなりました。
まあ、そんなわけで。
差別的な描写や、西部の独特な価値観に戸惑うこともありますが、琥珀色の液体を流し込みながら眺めたい物語。確実に違いの分かる大人向け。お子ちゃまは立入禁止ですよ。