ねつき

カフェ・ソサエティのねつきのレビュー・感想・評価

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
4.2
「人生は結局ラブソングと同じだとさとった」

ああ辛い………自分がこうなることよりも、自分のパートナーがこうなることを思う方が辛い………
日本の不倫系映画は生々しくてドロドロしてるイメージで全く観る気にならないのだけど、この映画は軽やかに不倫や浮気を描いているのと、出てくる人物がみんな大人で、言葉にしない感情も理解できて、なんだかしっとりと、自分の心に浸透していった。
ジェシーの奥さんだって、ジェシーが夢うつつなことに気づいてんだよね。そりゃ。けど、自分の前からいなくならない旦那。「浮気しないでよ!!!」って全力で叫び出せたら楽なんだろうけど、そんな自分も嫌だしそんなこと言ったら逆効果なのわかるから、言わないよね。言えないよね。今ある幸せを壊したくないから。たぶんジェシーに詰め寄って不安を語ったら、キスもセックスもしてくれるだろう、けどそれじゃ満たされない、根本的な何か。その何かが、「夫には本当は忘れられない人がいて、でも彼はいい人だから、自分のことを大切にしようとしてくれている、夫にとって1番好きなのは私ではない」ってことなんだな。けど今レビュー書いてて思ったけど、人生で「1番好きな相手」と「最も愛している相手」は、違うのかなと思った。

誰かが「結婚は2番目に好きな人とした方がうまくいく」と言っていたが、それともなんだか違う気がして。奥さんのヴェロニカは本当に愛らしい。いつも笑顔でジェシーに愛をくれている。子供の世話も丁寧にして、きっと浮気もしてないだろう。ジェシーは奥さんや子供(出てこなかったけど)を紛れもなく愛しているはず。これでもうすこしジェシーが馬鹿か若いかで、このまま夢の中のヴォニーと現実でも結ばれたい!!!と思って実行しても、絶っっ対にうまくいかない。愛してると好きは違うんだ。愛してるなんて、出会って数週間で言える言葉じゃないんだ。相手のいいとこも悪いとこも全部自分の中で折り合いつけて、愛おしいと思えるようになることが「愛」だと思うんだ。「愛」と「恋」は似ている(というか愛の入り口が恋)だから、アホな男は勘違いして突っ走ることもあるだろうが、ジェシーも奥さんもヴォニーも、それがわかっているのだろうな、と思った。

もしかしたら今後ヴォニーと会わなくなっても、ジェシーは死ぬ時までヴォニーのことをぼんやりと思うのかもしれないが、それはそれで本当にただの夢であって、「こうすればよかった」という後悔ではないのだろう。教員になった私が今「あ〜やっぱり絵本作家とか漫画家とかイラストレーターとかそういうクリエイティブな職業についてみたかったわ〜」って人生もう一周やり直したところで到底無理な理想をぼんやり思うのと同じようなレベルでしかないはずだ。そう考えると人間は本当に不完全だと思うし、愛くるしいと思ったのでした。

だからこそそうできなかったおじさんのフィルはこの理論でいくとお前が悪だって感じになるけど、でも何年経ってもちゃんと今の奥さんを愛しているようだし、まあそれはそれでいいのかなと思った。
とにかく、過去に関係があったかどうかは置いといて、自分が惹かれそうな相手にはなるべく会わないこと、ロマンチックな雰囲気にしないこと、これが不倫経験者の端くれの私が今後自戒としていきたいことです。

ここまで考えられる映画がいい映画じゃないわけないのだが、大好きな彼氏が、実は過去に好きだった女の子のこと忘れられないんじゃないかって、ちょっと心配しながら、今日も自分のためでしかないレビューを書いてしまうのです。私は好きな状態で別れることになった「今でも忘れられない相手」とかいないな。だってそんなの辛すぎるじゃん。
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