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3.9
父親とは娘が心配で仕方のない存在である。音楽教師の父ヴィンフリートは一人娘のイネスが幸せにしているか気になり、ドイツから赴任先のブカレストに突然会いに行く。

多忙なコンサルタント業をやりながら父親の相手をして、仕事仲間や取引先にまで紹介し何と食事まで共にするというイネスの対応に個人的には感心した。日本では自宅でパーティでもしない限り、親を職場仲間に紹介する機会はほとんどないと思う。まして、取引先との大事な接待に連れて行くことは考えにくい。

自分の単身赴任先に突然親が来たらどうするか?仕事を早めに切り上げるのが関の山だろう。ひょっこり現れたことに驚くより、身勝手だと怒るかもしれない。性格も正反対で煩わしいと思いつつも自分を心配して来てくれた父親を迎え入れて対応する姿勢は偉いなと感じた。

娘に幸せか?と尋ねる。24時間仕事に追われ心の余裕もなく、ブカレスト生活を楽しんでいる様子もないキャリア志向の高い娘を心から心配しているのだ。父はドイツに帰国せず、別人として再び娘の仕事場に現れるのだが、そこからが実に面白い。多くの父親は母親とは違い、おそらく娘を見守ることしか愛情を注ぐことができないかもしれない。主人公の様な父親を嫌う娘は多いと想像するが、父の愛情表現は決して上手ではないがそういうものだと思うのである。
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