ダワーニャミーンビャンバドルジ

パーソナル・ショッパーのダワーニャミーンビャンバドルジのレビュー・感想・評価

パーソナル・ショッパー(2016年製作の映画)
4.8
サスペンス?ホラー?ミステリー?どれもこの物語の本筋とは違う。予告編を見て興味を持った人にとっては、もしかすると拍子抜けな内容に見えるかもしれない。だが個人的には、あのラストは今まで見てきた映画の中で最も新鮮で美しく、優しさに満ちていたように思う。


映像とは画像の連続である。だがそれは観客の錯視と作用することで、単なる画像の連続の枠を超えた働きを見せる。


アサイヤスはフェードアウトの人だ。チャプターが終わる時、或いはエンドロールに入る時、彼はフェードアウトを多用する。『アクトレス 女たちの舞台』なんかはまさに、フェードアウトを多用したアサイヤスらしい作品だった。

今作でもフェードアウトは多用されている。だが、ラストのフェードアウトは今までのそれと一味違う。その「一味」がラストに与える影響はあまりに大きく、新鮮。


多くの観客が首を傾げるであろう例のあのシーン、カメラが捉えていたのは間違いなく「彼」だったし、ラストで我々が見るのも「彼」である。


あまりに美しく、優しさに満ちたあのラスト。画像の連続の中からその1枚だけ抜き出してみても、そこには何も見えまい。だが、観客の錯視によって初めて、その技巧が完成し、そこに「彼」が現れる。


自らに向けられたその優しさを、主人公モウリーンは知ることなく生きていくのだろう。きっとそれでいいのだ。モウリーンの周りだけではない。優しさは、たとえ気づけなくとも、そこかしこに確かに存在する。