emily

アクエリアスのemilyのレビュー・感想・評価

アクエリアス(2016年製作の映画)
3.5
ブラジルの海岸リゾート都市として知られる北東部ペルナンブッコ州レシフェで音楽評論家として長年同じアパートに住んできた。しかしある日地上げの危機にさらされるようになる。しかし彼女は断固として断り、自分の城を守るために戦う姿を描いた。

冒頭は1980年叔母の誕生日パーティである。主人公のクララもまだ若い姿で、がんを乗り越えてそこに出席している。親族がそれぞれ叔母に向けてお祝いの言葉を送り、回想と共に若い頃の性生活が描写される。アンダーヘアもモザイクなしで、エロスよりはドキュメンタリーに近いタッチでの描写である。そこから月日は流れクララも年老いたおばあさんになっており、浅黒い肌でしかし凛と以前は賑やかだったアパートで一人で暮らしている。カラフルな色彩が目に楽しいインテリアの数々と、きゅっと結んだ髪の毛と、乳がんにより失った片方の胸も痛々しく日常の彼女を描く過程で描かれる。幸せな日々の中に消えない痛みがあり、しかしそれと共に生きてきた、クララの強さを感じさせる。

本作は何といっても音楽が占める割合が多い。40年の月日が流れても彼女の部屋には古いレコードで埋め尽くされていて、毎日その日の気分に合わせて音楽をチョイスするのだ。古き良き音楽が作品に陽気な空気や日常に音楽があることで、心も体にも良い栄養を与えてくれていることが分かる。リゾート地ならではの、ハンモックの昼寝や孫との関係性や、穏やかな時間が流れ、そんな日々をいとおしく大事に生きてるのが伝わる。

しかし彼女の住んでるアパート”アクエリアス”は買収の危機にさらされており、悪質なやり方で彼女を出て行かそうと強行手段に出てくる。その中心的人物がディエゴという髭を生やした、非常に優しそうなさわやかな笑顔が印象的な青年だる。表情と対照的な嫌がらせの数々、不穏な空気感を工事の音や変わっていく壁の色などでじっくりと迫りくるようなカメラワークで見せ、直接対決へと導いていく。お互い話し合い解決する方法は毛頭ない。どちらも一歩も引かない状態で、ラストへ畳みかけていく。

古き良き時代を懐かしみその中に生き続けてる訳ではない。それが彼女という歴史を作り、今の彼女の強さにつながっているのだ。だからこそ、昔から聞いてきた音楽を大事にし、失った片方の胸への痛みもしっかり向き合い、その痛みも彼女の個性で、歴史であるといとおしく抱きしめていきている。だからこそ、その歴史が詰まったアパートは彼女のすべて彼女自身であろう。それを守ることは、自分自身を守ることであり、家族と生きてきたすべての歴史を守ることである。

クララ演じる、ソニア・ブラガの年齢を重ねた分だけ、自分をしっかり持ち、凛とした表情や行動のすべてが、内面からあふれだす”強さ”と重なり、魅了される。欠点こそ愛おしく、痛みこそ個性である。自分を許し、自分を愛し生きることは人生を豊かにするのだ。
emily

emily