akihiko810

わたしは、ダニエル・ブレイクのakihiko810のレビュー・感想・評価

3.9
「私は、ダニエル・ブレイク。住民社会保険番号ではない。私は人間で、犬じゃない。」
gyaoでざっと視聴。イギリス映画。ケン・ローチ監督。カンヌのパルムドール受賞作。

心臓病のため働けないダニエルは、給付金の申請をするが、煩雑なシステムのため手続きは思うように進まない。
そんな折りに、二人の子供を抱えたシングルマザーのケイティと知り合う。
困窮しているケイティたちを助けようと懸命になるダニエルだったが、厳しい現実の壁が立ちふさがる...

この映画はイギリス本国で、保守から「イギリスの恥を世界にさらす映画だ!」と批判があったらしい。「万引き家族」のときのネトウヨといっしょで、クズは世界共通でクズのようだ。
こんな社会制度をほったらかしにしている方が恥さらしだろう。

本作は社会派、というかいってしまえば「告発映画」であり、娯楽作ではない。是枝監督の「万引き家族」があくまで娯楽作であったのとは大きな違いだと思う。娯楽色を強めて、ダニエルとケイティ一家の交流シーンをもっと増やしてもよかったように思う。(私の好きな)是枝監督ならこうは撮らないよなぁ、と思いながら見ていた。
が、逆に言えば「社会派映画」としての強度、純度はすごく強い。
フードバンクでケイティが空腹のあまり缶詰を開けてしまう場面や、ダニエルがケイティに売春をやめるよう説得する場面などは、本当に胸をつかまれる。
明日は我が身かも…という思いになった。

驚いたのは、ダニエルの葬儀でケイティがダニエルの声明を読み上げると同時に映画が終わってしまうこと。普通なら余韻を残すためにケイティ一家がこれから暮らしていくなりのシーンを追加するはず。
声明という「作品のテーマ」を読み上げて、余韻を残すことなくぷっつりと切ることで、エンドロールで観客に「こんな現実をどう思うか」と突きつけるのがショッキングであった。

ダニエルが職安に声明を落書きし警官につかまるが、「こいつこそヒーローだ!」と路上の観客から称えられるシーンが唯一といっていいほどの胸がすくシーンだった。
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