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セールスマンのryosukeのレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
3.7
かなり胸糞悪い作品であった...
タイトルの「セールスマン」には、舞台で主人公が演じる役と犯人(らしき人物)の職業が行商であることの二つの意味があるようである。
画や映像表現にさほどの特徴、見どころが無い上に、話が動き出すまでちょっと長いので序盤は退屈。映像的な工夫は手持ちカメラで臨場感、緊張感を煽ることとジャンプカットぐらい。劇場のスイッチャーがガラスに映りこんだり、手元を意味深に映されたりするのだが、特に物語に絡んでこなかったのは謎。適当に雰囲気を出すためだけの演出が多いなという気がしてしまう。
冒頭の何が起きているか分からないままに、長回し手持ちカメラで不安を煽られるシーンから始まって、一貫して不穏な空気が流れており、それによって主人公の危うさも表現されている。娼婦役の女の不安定さ、妙な笑い方も不気味。タクシーで過去に男に乱暴された女性と乗り合いになるシーンは伏線的な役割を果たしている。人間関係も映画の進行に合わせてどんどん不安定になっていく。
子どもの登場で和ませたかと思えば、すかさずパスタの件で嫌な状況を作り出すシーンなどは観客の不快感のコントロールが上手い。
終盤の緊張感は凄い。濃密な心理描写で我を失う主人公を描いていく。
劇中の舞台とのパラレルな演出もなされる。無人の部屋がパチッという音と共に消灯されるシーンは舞台が終わったかのようであるし、舞台の中での夫の死の直後に現実の悲劇的な結末が訪れ、予言のような役割を果たしている。
ラスト、メイク中の二人を交互に映していくシーンは表情が暗く、二人のこれからには期待できない。なんとも後味が悪い結末であった。
結局妻がどこまでされたのか、登場人物の頭や足の怪我の原因等は分からずもやもやした感覚も残る。
イランの保守的なジェンダー観が随所に見られたのは面白かった。
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