Kevin

ハクソー・リッジのKevinのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.7
バージニア州で生まれ育ったデズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は幼い頃のある事件から“汝、殺すなかれ”を信条としている。
しかし他の者が皆、戦地に赴いているのに自分だけ家に居るわけにはいかないという理由で兵役に志願することに。
その彼の信仰が兵役に大きな壁を生むことになるが、周りの支えもあって何とか衛生兵として勤務することが可能になった。
帰りを待つ妻の為、家族の為、そして己の信念の為に断崖絶壁〝ハクソー・リッジ〟へと出征する...。

苦しい。観ていて苦しい。
互いに直接的な恨みを持たないにも関わらず、互いに傷付け、傷付き、殺し合う。
戦争という人間最大の愚行が、大迫力のスケールと共に実話として語りかけてくる。

自分もまるであの戦場に居るかのように、恐怖,緊張,痛み,嘆き,惨さ,血飛沫,衝撃を身をもって体感させられる圧倒的な臨場感。
全てが凄まじくリアルで、戦場に響き渡る悲鳴が今も尚耳を包んでいる程だ。

あれ程、粉骨砕身して厳しい訓練に耐え抜いた兵士達であっても、武器の前では藻屑のように脆い存在となってしまう。
そこで改めて知った武器の恐ろしさ。
数秒前まで隣に居たはずの仲間が一瞬で過去になってしまう戦争の恐ろしさ。

しかし、どれだけ血を流しても、どれだけ尊い命を失っても、朝陽は毎日同じ様に昇る。
世界は止まってくれず、何事も無かったかのように1日1日を繋いでいく。
彼らが辺り一面に転がる肉片を跨ぎながら前へと進んだ戦場の先には何があったのだろうか。
数多の命に代わるモノを掴めたのだろうか。

いや、何も変わらない。変わってはくれない。
だからこそ人間は繰り返す。
間違いだと知りながらも、自らの行為を正当化し、無駄な犠牲を払い続ける。

そんな地獄のような時代の中、デズモンドはその間違いを間違いだと掲げ、周りにイカれた奴だと罵られようと、痛めつけられようと決して己の信念を捻じ曲げない。
そして最後の最後まで、絶えず殺し合いが行われている戦場であっても武器を手にすることはなく、ただひたすらに負傷者を手当する。
銃弾が頭を掠めようとも臆さずに、救うことだけに全力を捧げる。
彼こそが本物の兵士であり、紛れもない英雄ではないか。

信念を貫くことの大切さを、デズモンドのハクソー・リッジでの行為に教えられた。
それと同時に、彼の英姿に心を洗われた。
戦争という残酷な光景が広がる中で唯一、彼の存在が自分にとっても光だった。

彼の偉業は奇跡ではない。神の仕業なんかではない。
それを成し遂げたのは他でもないデズモンド・ドスなのだ。
何かを変えることが出来るのは、彼のような心を持った者なのだろうと心から思えた。

何度も言うが、戦争は何も変えてはくれない。心を滅ばせるだけだ。
その事を今一度、本作を観て胸に問い掛けるべきだと思う。
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