Kevin

ノクターナル・アニマルズのKevinのネタバレレビュー・内容・結末

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アート・ディーラーとして大きな成功を収めているスーザン(エイミー・アダムス)だが、夫との関係はあまり上手くいっていない。
そんな中、20年前に別れた元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から〝Nocturnal Animals(夜の獣たち)〟という小説の原稿が送られてくる。
原稿を読んでいくにつれ、彼女はその不穏な物語に不安を駆られていくことに...。

冒頭、狂気のオープニングで幕を開け、その力強くも奇妙な光景に圧倒された。
そこに暫くして映るスーザンの空っぽな瞳。
果たして彼女がこの作品を選んだ理由とは何だろう。

もしかしたら彼女の本来の感性という可能性もある。
だが芸術家というのはその時の心情に影響を受けやすい職種に思える。
ならば彼女の異常を来たした心中を投写したものではないだろうか。

彼女はこの時から既に、もしくはもっと前から心が疲弊しきっていた。

富と名誉を手に入れ、ハンサムな夫だっている。
順風満帆と言えるに値する要素は幾らだって備えている。

なのに心は空っぽな気がしてならない。
そしてそれが何故かを彼女自身は気付いてしまっている。

そこに不意に届く、20年前別れた元夫が書いた小説。
開くとそこには“For susan”と書かれている。
普通ならば“For...”と添えられていれば少なくとも愛が込められているだろう。

ところがこの小説はスーザンの心を寄生虫のように乗っ取り、内部から徐々に蝕んでいくこととなる。
エドワードが彼女に向けて書いたこの小説は、彼に起きた人生の崩壊を描いているように思えて仕方ないのだ。

小説内の“トニー”がエドワードなら、スーザンはトニーの妻“ローラ”。
しかしその妻と娘を奪った“若者3人”も同じくスーザンなのである。
そして“アンディーズ”こそ“今”のエドワードなのである。

現実と小説と過去がリンクしていく中で何度も彼女は読むのを躊躇する。
だが、それでも彼女は読み進めていく。
この出来事を生んでしまった自分に与えられた使命だからだ。

少し話は逸れるが、自分が悪いことをしたと思えはしても、自分を完全否定できる人がいるだろうか。

それはスーザンも然り。
元夫に酷い別れ方をしたのは事実。
ここまでなら誰でも思える。

だがその後に「…でも」と踏みとどまる自分がいる。
間違いだったと認めたくない自分が何処かに必ずいる。

それに加え「まだエドワードを想っているのかもしれない」という想いが、間違いを認めたくない自分と無意識の内にぶつかり合い、余計彼女を困惑の世界へと誘うのである。

なんとか小説を読み終わり、彼女はエドワードとの約束の場所へ行く。
ここで遂に現実と小説がリンクし終える。

そう、エドワードはトニーとアンディーズを形を変えてスーザンのもとへ送ったのだ。

何なのだろう、このなんとも言えない感覚は。
この静かにもおぞましげなラストが、劇場を出てからも長く尾を引いた。

アートも映画も全ては観客の感性に委ねられる。

ある作品を芸術と捉える人もいれば、ゴミと捉える人もいる。
ある映画をコメディと捉える人もいれば、反戦映画と捉える人もいる。

この作品も同じだ。

愛なのか、復讐なのか。

結論、自分の目には復讐としか映らなかった。
何とも陰湿で壮大な復讐の物語のように思えてならなかった。

だからこそ面白い。

スーザンはあのラストからどうやって気持ちを立て直していくのか。
間違いを犯せば取り返しはつかない、失ったものは二度と戻らない。

それを知ってしまった彼女の続きを見たくてたまらない。

トム・フォード、恐るべし。
Kevin

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