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ハクソー・リッジのslowのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
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「我々の部隊には"奇跡"が必要なんです!」
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デパートで椅子に座り休憩してると
母が突然言う。
「そう!これ!この映画だよ!」
母が指差したのは壁に貼られた1枚のポスター。
「これ、沖縄戦の話ってよ!」
「え、そうなの!?」
私と母がこんなに驚いてるのは
地元が沖縄だからである。

ここで配給会社に苦言を言いたい…。
私は母が言う前からそのポスターを
じつは一回チラ見してたのだ。
が、キャッチコピーには"沖縄"とも"日本"とも
記載がなかったので
完全スルーしたのだ。

きっと母が言わなければ、
FILMAKSのレビューすらも飛ばし
この作品の存在のことは
興味も持たなかっただろう。
日本の隠す宣伝の仕方には腹が立つ。

沖縄戦は私が小学の頃に
お年寄りの体験談やアニメ映画,
図書館で当時の写真等を見聞きし、
修学旅行でひめゆりの塔へも見学で行った。

凄惨で惨たらしい話を散々聞いたけど、
「一人の米兵が誰一人殺さず、
仲間も日本人も分け隔てなく助けた」
という話は初耳だった。

母から本作の事を聞いて衝撃を受けた私は、
映像もあえて見ずに劇場へ直行した。

本作はドラマ色が非常に濃厚であり、
笑えるシーンやメロドラマもあって、
戦争物が苦手な方でも見やすく、
主人公に厳しい仲間や上官、父親も
話が通じるイイ人揃いなのでストレスなく見れる。

驚く事に戦いはメインではなく、
中盤までは衛生兵になるまでの話。

しかし私が何より気になってたのは「銃声」だ。
耳が敏感な体質なのでいつ"バーン"と鳴るか
ヒヤヒヤしてたけど意外と鳴らないのだ。
戦争映画なのにッ!
…いつ鳴るかと思ってたら
そこが本作の「重要なシーン」で、
主人公が"銃嫌い"だからこそ、
後半まであえて銃声を入れなかったんですね。

日本で史上最大の「地上戦」を繰り広げた
沖縄戦をメル・ギブソン監督はどう捉えたか。
日本兵の姿はゾンビにも鬼にも見えるような
野蛮な描き方をしていた。

敵軍を「人でない者」のように描くのは
戦争映画にはよくある。
けど、これはそうじゃない。
死に物狂いで抵抗し続けた日本兵士の姿は
アメリカ人からすれば、
ゾンビか化け物に見えたに違いないだろうから。

主人公の最後にした勇敢な行動や、
冒頭に繋がる最終決戦のシーンは
両陣営バタバタ倒れる壮絶な光景に反して,
ワンショットワンショットはPVのように美しく,
ラストで本人映像が語る言葉には
さっきまで観た本編の映像とがリンクして
はっとさせられ,また違う感動を味わえた。

でも"日本人"だからこそ、
米国目線の本作は「共感できない部分」もある。
"笑い"があるのは空気を和ませる為とはいえ、
民間人も強制的に戦場に駆り出されてた
当時の日本の状況を思うと笑いにくい…。

それ以上に地図で見てもあんなに小さな島で
米軍の圧倒的戦力にもめげずに戦い、
倍の背丈の米兵達を震えあがらせた日本人は、
ほんとにすごかったんだと改めて思う。

戦争の結果として日本は負けましたし、
沖縄本土の領地も米軍に無駄に広く占領され,
現在は米兵による性犯罪に悩まされてます。
勝った者を讃えるのではなく、
「死んでいった者達のほうこそが英雄だ」と
本作で言ってる通り、
沖縄を守ろうと必死に戦った彼らの
血を引いて私が今こうして生きてる訳ですし,
取られる領地がこれだけで済んだのも
彼らのあがきが繋がった結果だと信じたい。
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