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アリー/ スター誕生のSHIMABOOのレビュー・感想・評価

アリー/ スター誕生(2018年製作の映画)
4.0
 本作でのブラッドリー・クーパーにかかる重圧ときたら、おそらく想像を絶するものだったに違いない。監督、製作、主演、音楽(脚本も!)を兼任することもそうだけど、とくに共演のレディー・ガガが一番厄介だったのではないかと(笑) 

 なにしろ今回が女優デビューだから、色々とフォローしなければならない部分は多かったはず。その一方で”本物の”歌手でもある彼女の横に立つということは、クーパー自身には(演技とは別に)相当な音楽の腕前が要求されるわけである。この難業に対し、クーパーは努力と気合で対処。週5日のレッスンを半年間続けて役作りをしたことは成果となって確実にフィルムに定着されている。実際ミュージカル・ドラマ両方におけるパフォーマンスは圧巻の一言。もちろんガガもに関しても、彼女の個人史と相まって、その気迫が画面からストレートに伝わってくる。これだけでも十分素晴らしい映画である。[以下、ネタバレ]

 

 ただラストの「主人公が自死を遂げる」シーンを丸々すっぽかしておいて言葉だけで説明するのはさすがに「え?!」という戸惑いがまず先に生じてしまうし、作家クーパーとしての未熟さを見てしまった気もする。確かにその少し前のシーンで、カメラはしっかりと決意を固めた顔を捉えてはいるけども、もうすこし死への願望を何かしらの手段で表現しないと、未だ死んだ事のないコチラ側としては主人公の心情についていけなくなってしまう。主人公の状況描写に不足がある訳ではない。しかし彼の敬愛するイーストウッドが『グラン・トリノ』で見せたアメリカの負の歴史に対する贖罪や、あるいは北野武『ソナチネ』などにおける、静謐な画面から狂ったように噴出するタナトスのような、我々の生の本能を屈服させるほどの”何か”は、この映画からは感じ取れない。

 しかし、この映画だけでブラッドリー・クーパーの評価を決定することは時期尚早である。多くの映画作家がそうであるように、彼もまた時間とともに成熟する必要がある。そしてその資質も持ち合わせている。その意味でこの映画は、今後に大きな期待を抱かせてくれる一本である。
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