亘

ディヴァインの亘のレビュー・感想・評価

ディヴァイン(2016年製作の映画)
4.2
【少女は貧困から逃れたかった】
パリ郊外。ロマ居住区に暮らす少女ドゥニアは、貧困から脱出するため麻薬の売人となる。親友マイムナと支えあいながら厳しい世界で生きようとする彼女だったが、一方で恋に落ち選択を迫られる。

少女ドゥニアが貧困から抜け出すために社会に足を踏み入れる。フランスの裏社会や移民たちに焦点を当てた作品だけど、フランスを舞台にした作品でもこれほど主要人物に白人が少ない作品も少ないと思う。主要人物で白人は、ドゥニアが恋に落ちるジギくらいで、そのほかの主要人物はほとんど非白人。フランスのイメージからは離れているかもしれないけど、今作が映し出しているのもまたフランスの一面であり、おしゃれなイメージに隠された現実なんだろう。

ドゥニアは勝気で生意気な少女。自分が置かれた環境を毛嫌いして、貧困から抜け出して裕福になることを夢見ている。学校で教わった通りに働き受付になったところで結局裕福にはなれない。家では堕落した母親を目の当たりにして、こんな風になりたくないと思っている。ドゥニアは閉塞感を感じていて、何とかして生活を変えたいと願って見つけたのが麻薬の売人だったのだ。

売人ドゥニアは少女のあどけなさと大人の(裏社会の)女性のしたたかさを持ち合わせている。生来の勝気な性格は、売人には重要だった。それでもやはり彼女は社会に出たことのないから売買の中でいくつもの困難に突き当たる。売人の仕事を始めたばかりの彼女は、どこか自身なさげで本当にこの世界でやっていけるのかと不安になる。ただ仕事をしていく中で彼女が次第に大人の(裏社会の)女性へ成長していく姿は見もの。でも一方で彼女はまだあどけなさ・純粋さもまだ持ち合わせていて、親友のマイムナとはしゃぐ姿はまさに女子高生だし、ジギとの初恋にたじろぐ姿は少女だった。それにいくら自堕落とはいえ自分の母親が好きという純粋さも失わない。

売人としての活動を始めた彼女にとって大きな転機は、ダンサーを夢見るスーパー従業員ジギとの出会い。初めは仕事の一環で劇場裏に忍び込んでダンスを見る程度だったけど、次第に2人は惹かれていく。彼女は初めジギに抵抗を持っていたし、「努力=ダサい」と考えていた彼女にとって一人黙々と練習する彼の姿はカッコ悪いものだっただろう。でも彼の姿は、ドゥニアの進んだ[悪の道・闇の世界]に対する[正しい道・明るい世界]を表していたように思う。ドゥニアは努力せずに夢を達成するべく売人となったけど、ジギは夢の達成のために努力を惜しまない。この出会いは、少女にとっての初恋という意味でも大きいけど、ドゥニアが闇の道から足を洗えるかという選択でも大きかった。ジギのダンスと仕事を天秤にかけるシーンは、まさにその状況を表していた。

しかしドゥニアが選んだのは闇の道だった。ボスであるレベッカの金を取り戻すべく売人宅へ向かったのだ。クラブで売人を誘惑するシーンといい、家に乗り込むシーンといい、ドゥニアの姿はあどけない少女の姿からセクシーな大人の女性になっている。それに持ち前の勝気で傷だらけになってでも任務を遂行する姿は、彼女の変貌を表していた。もうドゥニアは過去の貧しい彼女ではないのだ。

ただ終盤の彼女の転落は見ていて悲しかった。彼女はついに成功を手に入れ、ジギとともに幸せに暮らしたかった。でも親友マイムナを救うために自分のボスであるレベッカに直接対決を挑むのだ。彼女の勝気・親友への思いの強さを感じるシーンではあったけど、その結末は本当に救いようがなく切ない。ドゥニアは確かにかつての彼女ではないんだけど、一方で親友思いの女子高生の面もまだ持っていた。成功したかに見えたけど、それと引き換えに彼女は大切なものを失ったのだ。ジギについていけばきっと地味ながらも堅実に正しい道を進んで生きていけただろうに、もう後戻りはできない。結局彼女は生活を変えられるのか、いずれにせよマイムナ・ジギのことは心に残り続けるのだろう。暴徒の中悲嘆にくれる彼女の姿とその後の回想シーンはやるせなさと切なさに満ちていた。

印象に残ったシーン:ドゥニアとマイムナがオープンカーではしゃぐシーン。ドゥニアとジギが触れ合うシーン。ドゥニアが火災の中泣き続けるシーン。

余談
・ドゥニアを演じた女優ウラヤ・アマムラは、今作の監督の妹だそうです。
・題"Divines"は「神」という意味です。
亘