背骨

サバイバルファミリーの背骨のレビュー・感想・評価

サバイバルファミリー(2017年製作の映画)
4.0
原因不明の電気消失で全ての機能が停止した世界。
電気ガス水道通信すべて使えず、人心も荒廃し、デマも飛び交うような…3.11を経験した日本人なら誰でもが考えることすら恐ろしいそんな状況。
きっとハリウッドならとんでもないスケールのパニック映画になりそうなところだが、日本映画らしいスケールで、とはいえ貧乏臭くないリアリティをきちんと保って誤魔化す事なく描いている。
おそらくはそんなに予算がない中で撮ったのだと思うが、このクオリティーを担保してくれた事は賞賛したい。

重くなりそうな内容だけど、そこはデビューからコメディ色強めのエンタメ映画を撮り続けている矢口史靖監督。
モチーフを考えてかいつもよりは幾分コメディ色抑えめではあるものの、シリアス過ぎもしない絶妙なトーンが心地良い。

まずは事態発生前。父は仕事漬け、母は魚を捌けず、子供たちはやスマホ漬けの主人公一家の姿が描かれる。最初はあぁ最近の家庭ってそんなもんだよねぇ、と他人事な感じで見ていたが、あとからゾッとしてきた。
そこで描かれる姿は今の日本人への皮肉なわけだけど、誇張ではなくまんま今の日本家庭の姿であり、今の自分の(あなたの)姿そのものだから。
映画館では少し笑いが起きても良さそうなシーンだけど、ほとんどの人はそのリアクションがブーメランのように帰ってくるんじゃないかな。

事態はどんどん悪化し、家族はある場所へ避難すべく移動が始まるが、非常事態では日頃の立場や評価とは別の、その人本来の人間性の評価が明るみに出てくる。
会社では部長として、家庭内でも父として権力を振るっていた父親も、子供たちからいつもは思っていても言えなかったような事を言われる。そして最後追い討ちを掛けるように妻から
「そんなこととっくにわかってるでしょ!お父さんはそういう人なんだから!」
…うん、お母さん。ずっとそう思ってたんだよね。そう思っても稼いでくる旦那には言えなかったんだよね。…これはキツい。

こんな状況を力を合わせて乗り切ろうとする家族。こんな状況になってはじめて…大切なものを失ってみてはじめて気づくことがある。その事をこの映画は教えてくれる。…そうだけど、そうなんだけどさぁ…。

つくづく人間とは欲や現代社会がもたらす便利さと無縁では生きていけない生き物なんだな、と実感する。
自分たちの努力で手にした現代的な豊かさを失わないと肝心なことに気づくことも出来ないとは。
…でも残念ながらやっぱりそうなんだよね。だからこそ今さまざまな問題を人間は地球規模で抱えているんだから。
そしてなにより残念だったのは…自分も確実にその中の1人であるという事にこの映画に気付かされてしまったという事です。
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