ほーりー

安城家の舞踏會のほーりーのレビュー・感想・評価

安城家の舞踏會(1947年製作の映画)
3.7
前回レビューの「自転車泥棒」はイタリアの失業したダメお父さんが主人公だったが、今回はお国も階級も違う、日本の元華族のダメお父さんが登場する映画をチョイス。

華族制度が廃止され、豪華な屋敷も人手に渡ってしまい、名実共に没落してしまったある伯爵家の一夜を描いた「安城家の舞踏会」。

監督は松竹映画のエースで“女性映画の巨匠”と言われた吉村公三郎。脚本は本作でシナリオライターとして確固たる地位を築いた新藤兼人。

江戸時代から続く大名華族で、伯爵の位を持っていた安城家。だから当主の呼ばれ方も“ご主人様”ではなくて“殿様”。

滝沢修扮する父を筆頭に、出戻りの長女を逢初夢子、放蕩息子の長男を森雅之、そして末っ子ながら一番家のことを気にかけている次女を原節子が演じている。

原は屋敷の元運転手で今や運送会社を立ち上げて財をなした神田隆に屋敷を買い取ってもらおうとするが、滝沢はプライドからか首を縦に振ろうとしない。

かつての栄華が忘れられないのでしょう、滝沢は屋敷が人手に渡る前にもう一度舞踏会を開くことを決めるが……。

ストーリーが屋敷の敷地内だけで展開するいわば密室劇の構成になっている。

オリジナル脚本だが戯曲「桜の園」をベースにしているせいかもしれないが、雰囲気は日本映画というより戦前のヨーロッパ映画を彷彿させる。

父親は元使用人に頭を下げて屋敷の買い取りを申し出るくらいなら、債権者にお願いして屋敷の差し押さえを諦めてもらおうと考えている。

どっちが現実的な案なのかは普通に考えればわかりそうなものなのに、父親にはそれがわからない。

窮地に立たされると正しい判断ができなくなる父親の姿って「自転車泥棒」もそうだったように和洋共通のことなのかも。

見所は原節子のタックルシーンで、この時のカメラワークがこれまた見事。タックルはアメフトだけの専売特許ではないのだ( ̄▽ ̄)

それにしても森雅之のあのやばさを感じる色気はどこから生まれるんだろう。
ピアノ演奏シーンの曲と指のあってなさ加減はちょっと笑っちゃうけど、まさに魔性という言葉がぴったり。

■映画 DATA==========================
監督:吉村公三郎
脚本:新藤兼人
製作:小倉武志
音楽:木下忠司
撮影:生方敏夫
公開:1947年9月27日(日)
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