ひでやん

あゝ、荒野 前篇のひでやんのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
3.9
東京の都会で死にゆく者と、東京の荒野で生き抜く者。

少年院上がりで金も家もない男と、吃音症に悩む男がプロのボクサーを目指して突き進む。憎しみを原動力にする新次と、内気な自分を変えようとする健二、対照的な2人がボクシングを通して成長する姿が感動的だった。

何も変わらない日常ではなく、何も変えようとしない日常。それが分かっていても踏み出す一歩が難しい。マイナスへ沈むかプラスへ向かうか、どちらの力も強力だ。高齢者に詐欺を行っていた男は高齢者を介護し、虐待を受けていた男は家を出る。そんな劇的ビフォーアフターが胸を熱くした。

様々な人間模様の中に怒りと赦し、運命と宿命、生と死が描かれ、ボクシングという骨格への肉付けがてんこ盛り。人の繋がりは出来すぎかなと思ったが、それもまた運命か。

「息もできない」の時とはまるで別人に見えるヤン・イクチュンの好演、でんでんの容赦なさ、高橋和也の変態ぶり、木下あかりの薄幸など、俳優陣の熱演が157分という尺を飽きさせなかった。

詐欺、売春、虐待、震災、自殺など、様々な社会問題を取り入れてあるが、全編通して描くテーマは「生きる」だった。がむしゃらに生きる泥臭さがなんだか凄く良かった。

自殺抑止研究会のシーンは、死の恐怖によって生を描くのは良かったが、ボクシングドラマを観ている途中で勝手にチャンネルを変えられる気分だった。
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