えむえすぷらす

ドリームのえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
5.0
60年代のアメリカ。公民権運動の途上にあった頃。テレビニュースはキング牧師の声を伝え、人種分離政策への座り込み、バスの座席分離への抵抗などが行われていた。

修士号や学士号を取ったアフリカ系女性がNASAのフルタイムのパートで軌道計算などの計算係(コンピュータ導入前は電動モーターが入った計算機など使って計算していた。日本だと手回し計算機なんてありました)や技術者として働いていた。(史実はいろいろと違っていて演出・脚色上多数変えられている)その彼女らがトイレだったり、コーヒーだったり、規則を用いた嫌がらせだったりとちょっとした障壁や差別に会うがそれでも乗り越えて白人側に理解をさせていく。
何故、主人公が駐車場を走り派遣元の職場の建物まで戻っていたのか。たったこれだけの事を上司の本部長はなかなか気付かなかった。そして気付いた時、思わぬ行動に出てちゃんと対策を取った。(ケビン・コスナーが好演)

考えてみれば冒頭のパトカーと3人の主人公たちのエピソードが本作の構造を示している。州警察の人は彼女らを最初アフリカ系の不審な女性と見ていたのに、ロシア人のおかげで彼女らが重要な仕事をしていると理解してそして(■■■機密事項■■■)なんてしてくれる。見事なオープニングシークエンスになっている。

最後のコーヒーを手にした主任。彼の行動まで変わった。

人種、男女差別の二重苦を乗り越えて認めさせた人たちの物語。面白い差別について考えるいい内容になっていると思う。

追記:グレン飛行士が美味しすぎる。キャサリンとは2回ほどしかすれ違ってないのにそのうちの1回で彼女の能力を信頼した。
グリソムはかわいそうにまた海没問題が取り上げられていた。アポロ1号事故で亡くなった彼は沈めた事についてハッチが勝手に吹っ飛んだ(NASA側はグリソムがハッチを開くボタンを触ったとか思ってるのだったか)という話なので、歴史上事実ではあるけど対立のある問題。映画は回収失敗→税金が沈んだとみていたようで興味深かった。

追記:先日結婚差別について分析された研究者が出演したラジオで聞いた話。「差別は差別されている側には理由がない。差別する側にしか分からない理由がある」人種分離政策や出入り口など分けるような州法についてアフリカ系など有色人種系国民の側にすれば差別されているだけで理由なんて分からない。そういう理由は差別している側に聞かないと分からない。
 トイレでのきついやりとりはこの構図が反映されていた。白人女性の上司は私は差別しているつもりはない的な事を言う。それに対してアフリカ系女性はそう気付いてないだけ的な事を指摘して立ち去った。本作がいいのはそういう指摘を受けて態度を改めていく点だろうか。これがなかったら精神的にきつい作品になっただろうと思う。

追記:背景事情。NASAの有人ロケットの遅れは陸軍系などいくつか開発路線が存在していて、最有力になるフォン・ブラウンが関わっていた陸軍のレッドストーン・ロケットに辿り着くまでの覇権あらそい(内輪もめ)の要因はありました。ソ連はコロリョフが中心で有人ロケット開発が進んだのでそういう迷いがなかった。ただ彼が病気の治療で手術を受けたものの亡くなってしまい月有人探査ロケットの開発が頓挫している。

参考書:
的川泰宣『月をめざした二人の科学者』ソ連のコロリョフと米国のフォン・ブラウンの生涯を通して米ソ宇宙開発史を俯瞰したもの。JAXA宇宙研の教授による著書。