Aya

否定と肯定のAyaのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
3.7
ホロコーストとかヒトラーの話ってあんまり手を出さないようにしてるんですよ。

芋づる式に他の作品も見ないと!ってなっちゃうから。

でもなんか気になって手を出した一作。

凄くいい話じゃん。

ホロコーストを否定するベシャリおじさんに名誉毀損だ、と訴えられるユダヤ人のホロコースト学者レイチェル・ワイズ(アメリカ人です!!)
ベシャリおじさんはイギリス人なので、イギリスの法律の方が有利だとイギリスの法廷に訴えを起こします。

アメリカでは訴えた人がなぜ訴えたのか?などの証拠を示さなければなりませんか。
が!
イギリスでは訴えられた方が、その訴えおかしいやろ?!という証拠を示さなくてはならない・・・すげえめんどくさいことに絡まれた・・・。

レイチェル・ワイズは美人なんだけど、独身で犬との2人暮らし。ホロコースト学者として、本を書き、講演に授業に忙しい。幼い頃から信念を通すことを教え込まれてきたので文字通り彼女の進む道に誤りはない。

そこにそれは嘘だ!というおじさんが出てくる。
いまでもこういう人いるし、確かに何事も様々な可能性を鑑みていろんな観点から検証するのは大事。

しかし、ホロコーストをなかった、シラミを殺すためのガス施設です、とか・・・無理あるだろw

稚拙なんですよw
あった出来事よりなかった出来事を証明するのがかなり難しいのに、このおっさんいろいろ研究して「なかった。あったと言ってる人は嘘つきだ!」と軽快なジョークで吹いてまわるから厄介で。

レイチェル・ワイズとしてはもうありえないだろ?!ありえなすぎる!!不謹慎だしホロコーストの被害者に対する敬意もない。あんな失礼な嘘つき野郎、世間に知らしめてやる!

くらいの意気込みでイギリスでダイアナの弁護士と言われる若い弁護士アンスコが登場する。
ダイアナ妃の離婚弁護士だったんですね!
しかし、そのアンスコは考え、作戦を練る弁護士。

法廷に立って弁護をするのはまた別にいる、とトム・ウィルソン演じる大御所弁護士を連れてくる。老年の弁護士は紙コップでワインを飲むのを好み、現場検証をみっちりして文言を練るタイプ。

この話の核であるホロコーストについて知らなければいけない、 とアウシュヴィッツにみんなで行くのですが、ここで詳細な説明を聴くうちにレイチェル・ワイズとユダヤ人の青年はこの場所に敬意を払いとてもパーソナルな気持ちで涙を流します。

しかし、肝心の法廷弁護士は事実のみ固めて行く、というやり方で案内してくれる人に対してどんどん質問をして行きます。待ち合わせにも遅刻してくるし、あまりにも死者に対する敬意がない!とレイチェル・ワイズは怒るのですが、トムは自分の仕事はホロコーストがなかった、という証言が間違いだと裁判所に認めさせることだ、とかなりもっともなことを言いますね。

そしてさすがトムも大先生ですわ。
いざ法廷が開廷したら・・・なんとも冷静に、こんな煽り系のオヤジの話を丁寧に一つ一つ裏返していくところは素晴らしい。
相手の目を見ない、とても大事!

そりゃ勝ちはわかってるけど、裁判て時に変な結論に至ることも多いじゃないですか?
しかしこの話がそのような例に混ざらない可能性もない。

「事実」なことが当たり前に認めてもらいたいだけなのに・・・。
名誉は毀損してるけど、それはそっちが嘘つき野郎だからだろ?!って大声で言いたいのに弁護士たちから教わった通り「黙ってる」レイチェル・ワイズ、耐える姿がなかなかよすなぁ。

「光をくれた人」の時の耐える演技も良かった。
もう感情移入しすぎてあの素敵カップルを殺そうかと思うほどだったけどw

法廷で証言しない方がいい、という強力弁護団の指示に従って言いたいんだけど慣れないことをめちゃ我慢して口を噤んでキョロキョロするとこ結構かわいかったですよw

法廷弁護士団の言い分としては被害者を白日の元メディアの元に晒し、もう何10回、何100回と聞かれたであろうや嫌な記憶を蘇らせてあんな大法廷で証言させて証言者を苦しめるのは避けたい、と何とまぁお優しい。
そしてそれをすることで感情論でいこうとしてる?というゲス野郎からの目線もはずせますし。
ほんと優秀・・・。

レイチェルは最初、ホロコーストがない、とかいう不届きものをコテンパンにしてやろう!と気合が入っていて、生き残った直接の被害者や自分が証言することが法廷を動かす、と思っていたんですよねえ。

でも最強ブリティッシュ弁護団の考え方は別。
レイチェルも被害者も証言台には立たせない。
奴のアホ証言だけで十分だと。

そのやり方にレイチェルは反発するのですが、長年裁判を重ねてきたブリティッシュ弁護士軍団。そして彼らは、人だよ、と。
金のために仕事をするときもあるよ。そりゃ当たり前だろ!

でもね、今回は心底あのウソべしゃりおじさんを止めないと、傷つく人がどれだけ多いか・・・死者も報われない。

でもね、明らかな被害者と被害がこれほどあることに対して、それはない!というのは敬意がない。
あんまりこのおじさん普通に話し通じるタイプに見えないんだけどなぁ・・・よくここまで持ち上げられちゃったなぁ・・・って感じ。

しかし、このべしゃりおじさん、ただのやっちゃったおバカさん。
で済まされません。だって自分で訴えたんだもん!!
そしたらもう笑うほどボロボロするんだけどw

アホ証言て簡単に書きましたが、歴史学者と言うわりに事実確認、検証、推測、反証、それぞれ一個づつ固めて行くものですよね??研究者の皆さん。

しかしこのおっさん、先にこれはウソだー!ってとこから始まって、そのウソに必要な証拠は?と言う探しかたをしているので、調べる、見つける、ではなく、今言ってることが嘘ではないと裏付ける証拠を探すというのは歴史学とはまた違うでしょう・・・。

しかしこんな軽いやつでもホロコースト反対論者がこの人だけじゃなくて、ネオナチとか、福音派(一部の)までこのベシャリおじさんの話を鵜呑みにしてジョークにして笑ってる。

今が楽しければいいってこと?
それが歴史以外だったらいいよ?
刀剣乱舞でもいいですよ!

そしたらさあ!裁判長が!
「彼は嘘をついているのではなく、心の底から信じている可能性は?だとしたら改ざんではなく、根本にある偏った知識、信念の為に犯したミスである可能性を否定できない」

とか言い出して!!
はー?!?!?!
洗脳されてたら無罪かよ!!
となったね・・・だからこそ上の裁判長の発言から判決に至るまでめちゃくちゃドキドキしたよー!!

そこまでを含めて法廷戦術を練っていたブリティッシュ弁護士チーム、凄いし、そのチームにちゃんと参加してなかった!と気付いたレイチェルがやっと仲間になる、って過程も良かった。
みんなでバカから売られた喧嘩を買って、より自身の主張を強く、より弁護士としての地位を得、新たな人間関係が築ける、という素晴らしいお話でした。

この裁判で時間やなんや痛手は食ったが、かけがえのない仲間をレイチェルは手に入れました。よかったね!

そんな法廷&弁護士チーム本当に仲がいいんだ。若い初戦の弁護士は彼氏に文句言われながらも「思ってたより全然面白い!」とやる気満々だし、他にも若手がやはり動いて活躍してくれてるので、1990年代に若かった世代はわりと革新的な人が集まっていたのかも。

そしてやっと判決を受け、それを地元アトランタで懲りずにテレビに出てるベシャリおじさんが今度は「あの判決こそが間違ってる」と言い出してるのをテレビで見ながら 「ブルックリン女?私はクイーンズよ」というラスト。
最高にキュートでした!!
Aya

Aya