亘

君の名前で僕を呼んでの亘のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.9
【少年たちの美しい一夏】
1983年北イタリア。アメリカ人大学院生オリヴァーが田舎町に住む大学教授を訪ねる。そこで彼は教授の息子エリオと出会う。それは2人にとって忘れられないひと夏の始まりだった。

エリオとオリヴァーのひと夏の恋を美しく切り取った作品。BGMがほとんどないし映像も日常を切り取ったようなものが多い。抑揚には欠けるかもしれないけど彼らのやり取りをありのままに美しく見せていた。そんな中でアクセントになっていたのが時折流れるピアノの美しい音色。北イタリアの美しい街並みや自然にマッチしていただけでなくオリヴァーとエリオの交流の美しさをも映し出しているようだった。

オリヴァーは、いかにもアメリカ人といった感じの自信ある態度で豪快。田舎町の狭いコミュニティの中では当初浮いてるようにも見えたけど、持ち前のオープンな性格ですぐに街に溶け込む。一方のエリオは少し内気な少年。音楽が好きで自分で作曲もしようとしている。エリオは物静かで自信がなさげだから当初オリヴァーに対して抵抗を持っているようだった。それに彼自身マルシアという彼女がいるから、まさかオリヴァーと恋をするなんて思わなかっただろう。

初めはなじまないように見えた2人だったが、次第に接近していく。それは田舎町という舞台のおかげだったようにも思う。自然に囲まれ特にほかに娯楽があるわけでもないから、一緒に街中を散策したり泳いだり音楽を聴いたりする。そんな交流を続ける中で2人の距離は縮まり惹かれあう。庭園や旧市街、家の中や水辺などロケーションは違えど、どの交流のシーンも2人の姿を美しく描き出していた。

次第にひかれあう2人の関係が最高潮に達するのは夜の約束と2人の小旅行だろう。約束をした日昼間からエリオは気が気でない様子で、マルシアとのセックスの最中も時計を気にしていた。彼女のほうを気にしないのはどうかとも思うけど、心がオリヴァーへとシフトしていたということだろう。それにオリヴァーの去る日が近いことも彼の気持ちを高めたのだろう。桃をいじるシーンは、もうすぐ去るオリヴァーを愛おしんでいるように思えた。だからこそ最後に2人で小旅行をできたのは幸せだっただろう。2人が草原を走り回る姿や夜の散歩をする様子は生き生きして楽しそうだった。

2人の出会いが運命的なものだったからこそ、その別れは悲しいものだった。でもそれ以上に印象的だったのはエリオの周囲の人々の優しさだった。彼は彼女であるマルシアのことを放置していた。それで2人は別れたけど、マルシアがエリオを許して友人として関係を続けることを決めたのだ。そして何より父がエリオにかけた言葉が優しかった。父は2人の関係に気付いていたが、息子のためを思って何も口を出さなかったのだ。エリオにとってオリヴァーとの出会いは運命的なもので、かけがえのないものだった。こんな出会いをできたのはエリオにとって非常に大きかったけど、LGBTへの理解がまだ乏しい時代、背後にはそれを許した父など周囲の人もいたのだ。

そしてラストシーン。オリヴァーからの電話口で、2人は互いを自分の名前で呼び合い夏を懐かしむ。その姿は少し生き生きしていたけど、オリヴァーの結婚を知ってエリオは一人で静かに涙を流し続ける。確かにオリヴァーと過ごした夏は戻らないけど、それほどまでに恋することができたなんてエリオは幸せだったと思う。ただひたすら涙を流すエリオの姿からは、彼の悲しさが痛いほど伝わった。

印象に残ったシーン:2人が自分の名前で互いを呼び合うシーン。エリオがひたすら泣くラストシーン。