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満月の夜のKKMXのレビュー・感想・評価

満月の夜(1984年製作の映画)
3.9
 本作は『喜劇と格言劇』シリーズの第4作目。この前満月だったので鑑賞しました。

 このシリーズ、物語が始まる前に格言が提示されるんですよ。今回は『2人の妻を持つ者は心をなくし、2つの家を持つ者は分別をなくす』。本作はひとりの男に留まれず、2つの家を持ったワガママ美女のお話でした。『海辺のポーリーヌ』に比べると切れ味は鈍く冗長さは拭えませんが、十分面白かったです。


 主人公である個性的な美女ルイーズは、田舎で彼氏と暮らしています。彼氏は真面目な人ですが、ルイーズは夜遊び大好きタイプで、ちょっと噛み合ってません。しばしばルイーズはパリに行き、ボーイフレンドのオクターヴとチャラチャラ遊びます。ルイーズはフラフラしているものの、彼氏を愛しており、オクターヴとの間に肉体関係はありません。とはいえ、彼氏の気持ちを考えることもありません。
 そんな毎日を送るうちにルイーズは「私は15からモテモテでひとりの時間がなかったワ!パリでひとりになる時間がほしいノ!」とお姫様のようなことを言い出します。パリで部屋を準備し、2つ目の家で1人暮らしを始めたのです。かと言って同棲解消するわけではなく、パリと郊外を行き来します。パリの部屋で念願のひとりになれたルイーズ。しかし、孤独に耐えられなくなり、友だちに電話を掛けまくるのでした。寂しさに耐えられないルイーズはさらに夜遊びをふるようになり、ダンスパーティーに参加します。そこで…といったプロットです。


 このルイーズちゃんは、いかにもロメールっぽい自分大好きっ子です。恋人に歩み寄らず、一方的に甘えています。友人オクターヴとの関係はさらにむちゃくちゃで、セクロスしたいとせっつくオクターヴをずっと袖にしながら「アナタとの友情は何事よりも大事なのヨ!」と言ってキープ(おあずけ食らっても関係を崩さないオクターヴもオクターヴだけど)。
 相手の気持ちやニーズなどお構いなし。ワタシが好きだから好き!ワタシが友だちだと思ったから友だち!と終始こんな感じです。

 ただ、彼女はあんまり打算を持っていないように感じました。なので彼女はものすごく幼い子なんだと思います。悪い子ではないんだけど、チヤホヤされ続けて成長するチャンスを失ったのでしょう。
 しかし、それも宜なるかな…と思えるほどルイーズちゃんはめちゃくちゃかわいいのです!現在から見ると突飛な髪型とかファッションも、すぐに見慣れて素敵で可愛く見えてくる。ルックスがズバ抜けているというよりも、表情とか態度が可愛らしくて周囲が放って置かない感じです。華奢な体型や甘い声も彼女を特別な存在に仕上げております。ルイーズを見ていると、これは甘やかされても仕方ねぇなぁ…と感じざるを得ませんでした。
 もちろん、そんな甘えん坊プリンセスちゃんがヌケヌケと生きていけるわけがない。ロメールワールドはしっかりとシビアなので、彼女はこれまでのツケを払うことになるのです。


 ロメールワールドでは、自分のことばっかり考えている人間は大事なものを取り逃してしまうように思います。もしくは、ただ生きているだけで何も得るものがない。
 ルイーズは自分のことばかり考えることが許されてきたから、きっと何かが足りないと思って一人暮らしを始めようと思ったのかもしれません。その選択は悪くなかったと思いましたが、孤独に耐えて自分を見つめなければ、これまでと変わらない生き方しかできません。でも、そう簡単に自分を見つめることはできないんですよね。その辺の塩梅が非常にリアルです。

 そんなふうに自分のことで足掻いてもがき、ブクブクと沈んでいく人たちを、あまり悪意なくサラッと描くのがロメール流なのかな、と感じました。『海辺のポーリーヌ』もそうですが、いつも人間は自分に振り回されてズッコケるし、そう簡単には変われないよ、というシニカルな視点が根底に流れているように思えます。そんな人間の業をちょっと距離を置いて描写し、「ま、人間ってそんなモンだよね!それでもなんとか生きていくんだよね!」とロメールはクスクス笑い飛ばしているように感じました。だから本シリーズは喜劇なんでしょうね。やはりロメールはフランス落語だな、と改めて思いました。


 あと、本作のオクターヴは『海辺のポーリーヌ』のピエールと非常に良く似たキャラでした。下心で動いているくせに善良ぶって自分を押し付け、それが見透かされているが故に相手にされない。ロメールはこの類型を『ミジメな非モテ』と位置付けているように思いました。
 彼らのタイプにだけは、どことなく悪意を感じるので、ロメールはこのタイプに何か思うことがあるのかも。もしかすると、若い頃のロメール自身だったりして。
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