こたつむり

ムーンライトのこたつむりのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.4
海の上にぷかりぷかりと浮かぶ月。
どこまでも独りで、どこまでも美しく。

とても静かでスリリングな作品でした。
説明的な台詞や場面を削ぎ落としているから、断面が尖っていて、気を許せばブスリと刺さってしまうのです。だから、それを避けるように鑑賞していると…いつしか、哀しみの沼に腰まで浸かっていました。

それは。
どの場所にも存在する差別。
性であり、人種であり、家庭環境であり、肉体であり…弱者を虐げることで心の安寧を図る“強者のような弱者”。勿論、誰もが好き好んで差別するわけではありません。でも、一度、嵌ると気付かないのです。自分の歪んだ笑顔に。

だから。
そこに存在するのは哀しみ。
差別される側も、する側も。
底が見えない沼に足を取られてしまっているのです。

そして。
そこから抜け出すためには、周囲のことを気にせずにジタバタするしかありません。身体を鍛えたり、圧倒的強者の傘下に下ったり、破裂する寸前まで研ぎ澄ますしかないのです。

しかし。
それは刹那の慰め。
たとえ、ゴムボールのような弾力性に満ちていても、いつかは劣化してボロボロボロボロっと崩れてしまうのです。残るのは、砂粒くらいまで細かくなった繊維。風が吹けば消えてしまう…それが本当の“孤独”。

まあ、そんなわけで。
ニンジンの皮をピーラーで剥くように、心が削られていく物語でした。ただ、唯一の救いは、最後の最後まで主人公の眼が変わらなかったこと。それは、物語としても、映画としても、称賛に価する表現だと思いました。

最後に余談として。
劇中で流れた『Cucurrucucu Paloma』という曲。これは民族舞踊の曲だったのですね。『Talk to Her』で使われていたのですが、てっきり『Talk to Her』 オリジナルの曲だと思っていました。しかも、鳩のことを歌っているとは…確かに「ククルクー」って歌っていますよね。かなり切ない曲なのですが、ちょっとだけ可愛いです。
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