ぎー

ムーンライトのぎーのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.5
「泣きすぎて自分が水滴になりそうだ。」
自らの居場所に悩む国人少年の成長を描いた傑作ドラマ。

今世界中で黒人差別を中心とした人種問題を扱った映画の良作が高く評価されている。
この映画は更に一歩先を行っている。
恐らくそういった人種問題のせいで、そもそもコミュニティ全体が貧困にある黒人コミュニティの中の、更に最下層に生まれ育った主人公シャロンの人生を描いている。
日本でも「万引き家族」が大ヒットしたが、全然問題は違うとはいえ趣旨は同じで、シャロンはにわかには信じられないくらい困難な状況にある。
そもそも父親はおらず、母親は娼婦で、子供のシャロンにも暴力を振るい、薬物依存症に陥り、同性愛の節があるシャロンは周囲の理解を得られず、学校でもいじめられ、リンチされる。
せめて何か一つは満足できる要素があればと思うが、彼は金銭的にも、家族にも、学校にも恵まれない、究極の状況にある。
こういった映画を見ることで、僕達は先進国のアメリカや日本にすらこのような現実が存在する事を思い知らされる。
なかなか想像を絶するので、完全な感情移入は難しいけど。

この映画が凄いのは、ただ現実を描いただけではないこと。
何も知らない僕らが黒人のヤクの売人を見て、決して全てを理解できるわけがない。
この映画は心情描写をしっかりと行うことで、シャロンや彼の父親がわりだったフアンが、好き好んで売人をやっているわけではないことをしっかりと理解する。
なんなら彼らは人類の平均以上に善人かもしれない。
そのことを知っているのと知らないでいるのとでは、社会の見え方は変わってくるだろう。

これだけ極限の状況を描き、舞台も終始貧困地域で、華やかさなどは欠片もないのに、この映画は本当に美しい。
シャロンとケヴィンの関係性もそうだけど、なぜか映像や音楽がとっても美しく感じた。

一番印象に残っているシーンは、亡きファンの恋人テレサの家から戻ったシャロンが、ヤクのため母親からお金をふんだくられる場面。
学校でもいじめられて帰宅して、親からあの仕打ちなんて、やるせなさ過ぎる。

最初いじめられているシャロンをフアンが匿うところでは、どうしてチンピラでヤクの売人をやっているフアンがそんな善いことをするのか理解できなかった。
それがこの映画を見ているうちに完全に共感できてしまうのだからよくできた映画だと思う。
きっと好き好んでヤクの売人をやっている人なんてそう多くはないのだろう。
シャロンからヤクの売人していることを問い詰められたフアンが俯く場面は、本当に見ていて悲しくなった。
彼らは間違いなくこの社会の犠牲者。

学校でシャロンをいじめるテレル達のグループは本当にむかつく。
強制的にケヴィンも加わらせて、皆でリンチしたあたりは完全に犯罪だけど。
深夜のシャロンとケヴィンの情事はちょっと生々しかったけど、この映画を代表する美しい場面だった。
そして、同じように大人になった2人がレストランで再会し、ケヴィンの家で一緒に過ごす場面も本当に美しい。

ちょっと課題が多すぎて、共感できる範疇を超えているところはあったけど、美しく、色々なことを考えさせられる、芸術的な映画だった。

◆備忘ストーリー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ムーンライト_(映画)
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