ぎー

あんのぎーのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.0
【河瀬直美特集1作品目】
素晴らしい映画だった。
らい予防法が廃止されたのは驚くことに1996年。
これを昔と考えるか、最近と考えるか。
僕は昔と考えることはできない。
少なくとも平成になってもなお、そのような法律、考え方があったことは衝撃的なことである。
ということは、まだ苦しんでいる人が、現在進行形で今もなおいる。
それは病気そのものもそうだし、社会的な扱いに対してである。
そのことを恥ずかしながら改めて強く強く痛感した。
ただ、この映画はそういった苦痛を描くことに終始せず、救いも描いている。
たしかにハンセン病は苦痛の源ではある。
でも、それで全ての人生が否定されるわけではない。
主人公の徳江さんの言う通り、「私たちは、この世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私たちには生きる意味があるのよ。」である。
これはハンセン病に苦しむ人々だけでなく、何かに苦しんでいる人々、何かで躓いてしまった人々、思い描いた人生を送れていない全ての人々に対する、徳江さんの、樹木希林の、本作のエールである。
良いじゃん、僕らは生きている。
だから美味しいものを食べた時は笑おう、そう思った。

それにしても河瀬監督の映像表現が突き抜けている。
完璧で圧倒的な映像作品だったが、ほとんど映画音楽を用いずに全ての演出をやり切った。
それだけ作中の風の音、生活音、鳥の鳴き声などなどが重要だったと言うこと。
終盤、無音になる場面があるが、確かに僕らは画だけで音を聞くことができた。
そして、映像も美しい。
特にソメイヨシノの描写は突き抜けている。
こんなに美しい桜を見たことがない。
舞台となった東村山に行こう、そう思った。
言わずもがな、樹木希林の演技は完璧だし、永瀬正敏の影を携えた雰囲気も完璧。
本当にすごい作品を見てしまった。

映画が扱う題材はいくつかあって、食に焦点を当てることもよくあるが、本作はどら焼き、いや、その中の"餡"に焦点を当て切ったすごい振り方をした作品。
言い方が悪いが、どら焼きなんて餡を生地で挟んだ程度のものだって思ってた。
でも、やっぱり美味しいものには背景や物語や想いが絶対にある。
凡庸な餡ではなく、人に感動を与える餡を作るのは並大抵のことではないし、涙ぐましい努力がある。
きっとそれはどら焼きだけでなく、全ての食べ物や商品に同じこと。
本気で作ってるものにはやっぱりしっかりと向き合わないと。
明日からそうやって生きていこう、そう思った。
でもまずはどら焼きを食べに行こう。
ぎー

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