MASH

アンダー・ザ・シルバーレイクのMASHのレビュー・感想・評価

4.5
「悪夢版ラ・ラ・ランド」などと形容されている本作だが、意外と「悪夢的」とは感じなかった。確かにシュールな謎展開が多く、おかしな映画ではあるとは思う。しかし、この映画を観終わったあとは、何故だか『ラ・ラ・ランド』とはまた違った意味でどこか清々しい気分になるのだ。

僕はこの映画は「何者でもない自分への恐怖」を描いているのだと思う。ハリウッドという夢見る若者がいるような所で、なんの目標もなくダラダラと過ごす主人公。挙げ句の果てには家賃滞納でホームレスになる直前。そういう努力しない自分から目を背けて、彼は"陰謀論"という名の妄想に逃げていくのだ。そこにはなんの"意味"もないのに…

これだけ聞くと絶望的な映画かと思うかもしれないが、実際そんなことはない。この映画では主人公は現実から妄想に逃げ切ることができていない。むしろ妄想に逃げようとしている自分を客観的に見ている。でも現実は容赦なく彼に"何者"でもないことを自覚させてくる。しかし、この映画はそういう主人公に対して「努力しろよ!」と言わないし、「妄想に逃げてもいいんだよ」とも言わない。ただ「もう少し肩の力抜けよ」と言ってくるのだ。

この映画は監督の売れなかったときの経験をもとに作られているらしい。どんな経験をしたんだよと突っ込みたくはなるが、すごくシュールな世界観の中にリアルな感情があるように感じる。努力をしない人に対して上からものを言うのではなく、同じ目線からどうやったら変われるかを模索していくような映画なのだ。最後のシーンの彼の姿は絶望しているわけでも希望に満ちているわけでもないが、落ち着いた表情で自分の部屋を外から眺めている。きっとこの主人公も少しは良い方向に変われたのではないだろうか。

色んなものに囚われて息苦しい世の中だからこそ、もう少し気を楽にして生きても良いのではないか。悩んでも悩まなくてもどうせ人生はそのまま進んでいくのだ。めちゃくちゃな映画ではあるが、その中にそんな隠されたメッセージを発見した気がする。(もしかするとこれも僕の妄想かもしれないが…)
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