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太陽の塔のTSのレビュー・感想・評価

太陽の塔(2018年製作の映画)
4.3
【岡本太郎からの贈与】90点
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監督:関根光才
製作国:日本
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:112分
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2018年劇場鑑賞82本目。
今年のドキュメンタリー映画の最高峰。大阪人じゃなくても、太陽の塔、岡本太郎、万博に興味がある人は見たほうが良いと思う作品。しかしはっきり言ってかなり難解。芸術、哲学、宗教の話がインタビュー形式の中に混ざりこんでくるためそのあたりにある程度精通していないと退屈な映画になりかねないと思います。僕自身、それらに精通しているというわけではないですが、妙に集中してみることができました。恐らくこれは太陽の塔が持つパワーのお陰だと思います。言葉では形容しがたい、不思議な魅力を太陽の塔は持っていると思います。
我々大阪人としては太陽の塔がピックアップされるのは大変嬉しいこと。地元民ではありませんが、太陽の塔を世界遺産にするという動きもあるくらいですから相当なものです。なお、マイナー作品とはいえ、流石に太陽の塔を横に添えるエキスポシティのシネコンでは上映してるだろうと思って調べてみたらやはりしてました。僕は梅田で見ましたが、吹田在住の人がエキスポシティに足を運び今作を見ているのかも気になるところです。

今作の序盤は太陽の塔が出来た万博の様子を映していきます。様々な人物からインタビューをとり、当時の万博の凄さ、そして万博の意義もしっかり説明されていました。そしてほかの万博の施設の存在意義と真逆の方向にいくのがこの太陽の塔だそうです。そしてそれを世に生み出した岡本太郎に焦点をあて、最後は現代の日本人が抱えるコンプレックスまで言及します。まさに教養的映画。これ一本で普通の映画3本分くらいの情報が入っていると思われます。しかし、先述しましたがそれなりの教養がないとついていくのにも疲弊するかもしれません。例えばシュールレアリズムやカタストロフィーなんていう言葉を説明なしに平気で使いますし、曼荼羅なんかも挿入してきます。さすがに「自発的隷従」に関してはコミカルなアニメーションとともに詳しく説明してくれる親切設定でしたが、まあそれも当然といえば当然。そして後半では人間の未来について、科学の進化と絡み合わせて話しますので難解。これを万博の記録として見ると肩透かしを食らうかもしれません。鑑賞するには十分な集中力と体力が必要と思われます。

今作で放たれる情報は膨大なので、無論ここでは全て言及できませんが非常に興味深い内容ばかりでした。例えば岡本太郎は太陽の塔をつくりつつも常に人類の未来を見ていた。そして科学の進化なんて戯言であり、その科学によって人類は自滅するのだという警告もしていた模様。太古の文化と現代の文化では、現代の文化の方が優れているという啓蒙的な考えも岡本太郎からすると失笑であり、むしろ発想力でいうと縄文人に敵うのかすら微妙なところであるそうな。もっとも、岡本太郎も良い意味で並ならぬ奇人であるため、その意見に普遍性があるかは難しいところですが、彼のその豊かな想像力がこの芸術的な作品を完成させたのです。今作は太陽の塔の紹介に留まらず、人類の歴史を創造力、発想力から再考している節もあります。それが今作が傑作たる所以であると思われます。

3.11の災害映像が少し流れますので留意が必要。しかし、ここでも原発事故のことについて触れられていて、日本人が真摯に向き合わなければならないといけません。妙に納得したのは、我々には不都合でどうしようもないことが起きた場合、なかった事にしようとする習性があるということ。福島の原発事故も本当にどうしようもない未曾有の人災であり、どこかで隠蔽しようとする動きが少なからずあるのです。それでは人は前に進めない。どんな不都合なことに対しても真摯に向き合うこと。それが大事なのだと今作は伝えてくれています。

本日は三本見ましたがこれが一番良かった。単純に勉強になっただけでなく、太陽の塔の神秘さ、そして人類はこれから何をすべきなのかということも理解できたので一石二鳥以上でありました。1000年後?の何もない日本の大地に太陽の塔が佇んでいるのも印象的でした。太陽の塔は現在内部公開をしているので是非いってみたくなりましたね。大阪人としても、今作を見て太陽の塔に興味を持ってくれる人が増えたら嬉しい限りです。
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