むらむら

ザ・カナル 悪魔の棲む場所/運河の底のむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
「幽霊と未亡人」に続き、「事故物件」モノを鑑賞。あっちは事故物件と思わせて優良物件だったが、本作は正しい事故物件もの。

映像保存課で働くデイヴィッド(ルパート・エヴァンス)は、五年前に妻(ハンナ・フックストラ)と息子と共に、運河沿いの邸宅に引っ越していた。あるとき、デイヴィッドは過去のフィルムを調べるうちに、その邸宅で陰惨な殺人事件が起こっていたことを知る……。

これまでに100万回は観た設定。以前「残穢」の感想でも触れたように、こういった悲劇を減らすためにも、大島てるは大至急、世界進出した方がいい。

幽霊よりも印象に残るポイントが3つあった。(以下、時系列で多少ネタバレしてます)

1.ゾンビが出てきそうな汚い公衆便所

主人公が気分悪くなって迷い込む公衆便所。たぶんこの作品を観た人全員が「あー、あのトイレの映画ね!」って言いそうなくらいインパクトがある。

落書き、汚れた便器、薄暗い照明……これセットだとしたら「アカデミー賞トイレ部門」を受賞させてあげたいくらいよく出来てる。この作品と「トレインスポッティング」のおかげで、俺は金輪際、イギリスの公衆便所には近づかないことに決めた。「ヘビィ・トリップ」的な言い回しで言うと「イギリスの公衆便所に行くくらいなら、漏らした方がいい」

関係ないが、

「トレインスポッティング」



「トイレ スポッティング」

と呼んでも良いくらいトイレ汚いので、トイレマニアで観てない人いたらオススメ。

んで、主人公が個室でゲロ吐いてると、個室の外に主人公を待つ人の気配が……。

って、俺も新宿二丁目のトイレで遭遇したことのある絶望的な状況。絶対ホモやん!

……と思ったら幽霊だった。確かにここでホモが入ってきたら違う作品になってるだろうけど、主人公は「あー、掘られなくて良かった……」って安堵してると思う。ホモじゃなくて幽霊で良かったね。

この公衆便所、こんなに気合入ってるのに、クライマックスに何も関係ないところも凄い。

2.妻と義母のクズ親子

便所の一件があって、なんとなく不穏な空気になったところで、行方不明だった主人公の妻が水死体で発見され、事態は急展開。いったい、妻は何故死んだのか?

って話が中盤。ただ、この死んだ妻とその母親(主人公から見ると義母)のキャラ設定がクズすぎてドン引き。

妻は子供の送り迎えを旦那に押し付けて、ジゴロみたいな男の家で不倫。主人公が心配して尾行すると、AV撮影みたいなセックスしてる。しかも妊娠してたらしい。

殺されて当然のクズやなー、って思ってたら、葬式で登場した義母が、輪を何重にもグルグルかけたクズ。葬式で、義母が主人公にかけた言葉が特にヒドい。

「娘はあんたと別れようと思ってたんだよね」
「息子は私が預かるつもりなんだけど」
「あと、不倫相手の方が落ち込んでるから、なんとかしてあげて」

えーっ、なにそのアスペキャラ!?

ぶっちゃけ、この作品で出てくる幽霊全部詰め合わせても構わないくらい、この糞ババアの方がサイコパスで怖かった。しかも「サイコ」みたいに、物語に絡んでくるのかと思ったら、全く絡んでこないし。あと、観た人にしか分からないだろうけど、車のチャイルドロックはきちんと掛けておきましょう。

3.真面目すぎる主人公

というわけで、被害者である妻に全く同情できないまま物語は進行。主人公は「フッテージ」のイーサン・ホークのように、古い記録映像(とカメラ)に取り憑かれていく。

主人公のデイヴィッド役のルパート・エヴァンス、どこかで観たことあると思ってたら「ザ・ボーイ 人形少年の館」にも出てた。

「ザ・ボーイ」では、事故物件的に住むヒロインに日用品を届けるサザエさんの三河屋さん的立ち位置だったが、今作では自らが事故物件で苦しめられることになる。

そんな主人公を癒やしてくれるのは、二人の女性。映像保存課の女性クレア(アントニア・キャンベル=ヒューズ)と、息子の世話をするベビーシッターのソフィー(ケリー・バーン)。

普通なら、妻を亡くして、女の子二人に囲まれてたら、ラッキースケベを狙うところ。俺も椅子から身を乗り出して「すわ、オッパイタイムか!?」と興奮。

でもこの主人公は、ストイックに過去のフッテージに固執する。その、古い記録映像に残されているのは、ものすごく解像度の悪い全裸死体のオッパイ……。いや、観客が求めてるのは、そんな死体のオッパイじゃなくて、クレアかソフィーのオッパイなんですけど……。

4.貞子になりきれない幽霊

最後に満を持して登場するのが、主人公を呪い殺そうとする幽霊。ものすごく「リング」を意識した演出なのに、残念ながら中途半端。「リング」って、前衛舞踏の人を役者で使ってたりするから、普段有り得ないアクションをしてくれて、そこも不気味さを増してくれた要因だったと思うのよ。

なのに、この作品は、その不気味さが徹底的に足りない。この幽霊、貞子と伽椰子から「そんなんじゃ甘いんだよ!」「あんた糞ババアに負けてんよ!!」って、出番の後に便所で説教くらってそう。

代わり、という訳ではないのだが、クライマックスで挟まれるのは、幽霊の出産シーン。幽霊の出産シーンで初めて観た。ただ、俺の感想は

「おお、これは珍しい! ……だから何?」

って感じ。

唐突すぎて意味が分からない。儀式とか悪魔崇拝に絡めたいんだろうけど……アリ・アスターのADから始めてほしい。

と、全般的に惜しい出来なのだけど、物凄く日本のホラーを研究している感じがあって、俺としては楽しめた。

あと、タイトルは「運河の底」よりも「便所の底」のほうが適切かな。

「映画ファンが『便所が汚なすぎて臭ってきそう……』と戦慄するおすすめ『便所映画』10本」

ってのがあったら確実にランクインする作品だと思うので、そういうのが好みの方は是非!
むらむら

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