ニャーニャット

THE BATMAN-ザ・バットマンーのニャーニャットのレビュー・感想・評価

4.3

バットマン本人の自己セラピー映画。例のごとく幼少期に両親を殺されたバットマンは半ば犯罪への"復讐"に取り憑かれて自警活動に勤しむ。
しかし、リドラーの事件を追いかけていくうちに、自らや家族の過去も明らかになっていき、最終的には"ヒーロー"として生まれ変わる。
生まれ変わったゴッサムシティの市民を導く姿として、終盤、象徴的に赤色の発煙筒で救出されたゴッサムの市民を導きながら水の中をかきすすむシーンが描かれる。この水の抵抗で重い足取りではあるけど少しずつ歩みを進めるというのもこれからのゴッサムに立ち塞がる困難とそれに立ち向かうバットマンたちの姿を予感させる。
ヒーロー単体の自警活動で解決できる問題は大きな数にはならないんだけど、その姿に勇気づけられた人々にヒロイズムの灯が広がっていくことによる効果のほうが重要で、その火を灯すことができる人間を「ヒーロー」と呼ぶのだろう。
目にくまを作って夜な夜な犯罪者をボコボコにしてたバットマンが、ヒーローとして生まれ変わった途端、昼間に人命救助をしてるそのあまりの変わり様にはちょっと笑っちゃったけど。

ノワール調の雰囲気を借りたダークな絵作りはノーラン版バットマンの比じゃない。
特に、浅い被写界深度を利用したリドラーによる市長殺害シーンの恐ろしさとクールさは尋常じゃない。
また、バットマンがファルコーネのところに乗り込むアクションシーンのマズルフラッシュを使用した演出なんか「007 スカイフォール」味もあってめちゃくちゃカッコいい。「007 スカイフォール」味でいえば、終盤、バットマンが自己犠牲の決断の結果、落水し、蘇る「洗礼」と「復活」を思わせる象徴的なシーンなんかも「007 スカイフォール」味がある。あそこで完全にバットマンが生まれ変わるんだよね。
カーチェイスの演出も質実剛健。バットモービルもガンガン火を吹いてて完全に悪役の乗り物のような出立ち。カーチェイスシーンで追いかける方のバットマンのカットは一切なく、悪役のペンギンが恐怖しながら逃げ惑うショットしかないのもホラー的というかマジでどっちが悪役かわからない。

とにかく上映時間が長いことが玉に瑕だけど、フィルム・ノワールの探偵ものってだいたい必要のないシーケンスの連続で、答えの周りをグルグル回ってるもんだよね。