TS

THE NET 網に囚われた男のTSのレビュー・感想・評価

THE NET 網に囚われた男(2016年製作の映画)
4.3
【今見るべき作品】91点
ーーーーーーーーー
監督:キム・ギドク
製作国:韓国
ジャンル:ドラマ
収録時間:112分
ーーーーーーーーー
分断国家である大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の問題を描いた素晴らしい作品でした。日本公開が今年の1月だそうで、どちらかというとレンタル開始月に見た方がタイムリーな作品と思いました。いまや脅威と言わざるを得ない北朝鮮。果たして全員が脅威なのか。そのあたりも考えさせられる今見るべき作品と思いました。

北朝鮮の寒村に住む漁師のナム・チョルは妻と幼い娘の三人暮らし。とある朝、いつものように漁に出かけるのだが、船のエンジンが網に絡まってしまい、国境線を超えてしまうのだが。。

ナム・チョル演じるリュ・スンボムがひたすらなすびに似ているなと感じたのは置いといて、どうしようもない現実を的確に描いた社会派映画でした。つい先日にも北朝鮮がミサイルを発射しましたが、あれはマクロレベルから見た視点。情報を極端に遮断した国家であるため、ミクロレベルから見た視点が皆無であります。つまり、北朝鮮の国民が何を考え動いているのか、私達からするとかなり不鮮明なのです。その点、この映画は秀逸でして、演じてる俳優が韓国人であるのは置いといて、今作は北朝鮮の国民に焦点を置いているのです。何も北朝鮮に生きる全ての人がああいう思想を持っているわけではない。独裁政治を行う国の顔がそういう思想を持っているため、国民はそれに従わなければならない。まさしく全体主義であります。

さて、不法入国者、しかもスパイ疑惑として韓国から尋問をうけるナム・チョル。この尋問がまた理不尽でして、恐らく現実にも行われている行為なのでしょう。彼らにとって本当にスパイかどうかなのかは二の次。最も重要なのは、一人でも多くの北朝鮮の国民を南側に流すということなのです。独裁国家といえどもナム・チョルからすると母国。そこには家族も待っています。それを平気で踏みにじろうとする尋問官。流石に初めて北朝鮮側に同情してしまいました。しかし、それも束の間、後半ではそれが逆転させられてしまいます。

そもそも朝鮮半島は一つの国であったはずです。何故分断されたのか。そもそも分断国家とは何なのか。朝鮮半島だけでなく歴史的に観るとベトナムにおいてドイツにおいても分断された時期はありました。その分断国家を生み出した親玉は一体誰なのか。そのあたりを我々は真摯に考えなければなりません。また、北朝鮮があんな行為をしている元々の原因はどこにあるのか。日本が無関係と言っているようでは話になりません。北朝鮮は確かに国際的に見ても問題だらけだと思いますが、全ての責任をこの国になすりつけるのはまた違うと思います。

また、北朝鮮の人々が自国の人を「同志」と表現しているのが印象的でした。いつしか朝鮮半島の人々が全員を「同志」と呼ぶ日が来るのを願ってやみません。それには気が遠くなるような時間がかかると思いますが、ナム・チョルも内心は朝鮮半島が統一されることを願っているのです。朝鮮戦争が休戦状態に入りもう64年。未だに解決していないこの問題は、パレスティナの問題と並ぶ世界でも屈指の難題であると思われます。

韓国の貧困問題にも触れられてました。ナム・チョルは韓国のソウルを歩く時があるのですが、そこで売春婦に出会います。ナム・チョルからすると不思議で仕方ないのです。これ程自由で経済的に豊かな国であるはずなのに、何故このようなことはしなければいけないのか。北朝鮮サイドの人間が思うこのことは実に的を得ています。

最近紹介された韓国映画三作よりもこちらの方が響きました。どの時期に見ても傑作だとは思いますが、北朝鮮への関心が高まっている今に見るべき作品であると思います。今回の邦題は中々良かったと思いました。そして宣伝文句にある「スパイでも英雄でもない」は的を得ています。彼は家族を愛する北朝鮮の一市民でしかないのです。
TS

TS