こたつむり

女の中にいる他人のこたつむりのレビュー・感想・評価

女の中にいる他人(1966年製作の映画)
3.0
♪ この暗闇を切り裂くように光の筋が走って
  この心で生きていく世界が
  朝に照らされて輝いている

控えめに言ってタイトル詐欺だと思います。
真正面から受け止めれば、多重人格系のように読めますし、変化球だとしても、悪女系が関の山。まさか、気弱な男性(演じたのは小林桂樹さん)がひたすら悩んでいる映画だと、誰が予測できるでしょうか。

でも、劇場公開されたのは1966年。
今から50年以上も前ですからね。10年を一昔とすると五昔も前なわけで、言葉に対する感受性も大いに異なるのでしょう。僕のようなヤングなモボには理解できませんが。

ちなみに仕上げたのは成瀬巳喜男監督。
人間ドラマに定評がある監督さんらしく、手堅い筆致。洗っても落ちない汚れのような感情を俎上に載せる手腕は見事な限り。派手な展開がないのに物語が成立しています。

ただ、サスペンス映画として捉えると…。
やはり、微妙なところ。先が見えない展開なのに、ドキドキもハラハラもありませんからね。というか「これはギャグなのではないか」と思うくらいに朴訥すぎて…うーん。

それでも嫌いになれないんですけどね。
この辺りは監督さんの人柄による気がします。ひとつひとつを丁寧に編み上げた“職人”のような手堅さを「つまらない」と切り捨てるのは違うと思うのです。

それに着地点は中庸ゆえに異様。
ぬるっとした雰囲気の新珠三千代さんだからこそ、キラキラと光る水面の奥にドロリとした“何か”を想像させるわけで。この辺りの文学性は五昔前の作品なのに古びていません。

まあ、そんなわけで。
昭和の空気に満ちた心理サスペンス。
ミステリとして臨むと大いに肩が下がりますが、時代背景を楽しむように鑑賞すれば悪くない作品です。

なお、ロケ地は横浜や鎌倉、湘南など。
特に、今は亡きドリームランドで撮影された一家団欒の場面は貴重ですね。余談ですが、僕も子供の頃に行きましたが、ちょうど休園日でして…あれは哀しかったなあ…。思い出すだけで涙が止まりません。チーン。
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