まりぃくりすてぃ

覆面系ノイズのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

覆面系ノイズ(2017年製作の映画)
4.5
完璧じゃない。けど、確かな満足感があったよ! 素直な作りだもん。こういうのを「けれんみがない」っていうんだね。

シネマファンにとっての、この作品へのエントランスは、大雑把にいえば三通りだと思う。
①原作漫画が好きで、普通に映画にも期待して・・
②原作漫画は未読のまま、映画に期待して・・
③原作漫画が好きじゃないけど、何となく映画には期待して・・
そのうちの、①と②がたぶん9割強を占めると思うんだ。
でも、私は③なの。

正直、福山リョウコさんの原作は、私を掴まない。すじそのものは、生硬ではなくむしろグッド。だけど、画に際立つ要素がない(ハッとさせるような巧さも美も強さもない)上に、コマ割りがギコチナイ。オーソドックスな片恋錯綜物語のわりに、ページをめくるのに時間がかかり、毎巻毎巻小難しさに疲れちゃうんだ。
このことは、“幼深い(おさなふかい)語り”におおむね成功してる思春期向け漫画『12歳。』なんかと比べてみれば、一目瞭然だよ。
もちろん、バンドヒストリー物の漫画としては『NANA』こそが99点(←未完だからさ)の金字塔だし、毛色の違う『俺節』も、母にずっと前にムリヤリ読まされて吐きそうになっちゃった『ハイティーン・ヴギ』も上々。

そういうわけで、原作には不満ある私、何カ月も前にチラシで主演俳優たちの“絵に描いたような”美男美女ぶりに惹かれて、「必ずコレ観たい。漫画家が表現しきれずにいる『覆面系ノイズ』の本当の良さが、ひょっとしたら実写映画でならちゃんと伝わってくるかもしんないから」って決意した。
それでね、今回この映画に出会ってみて、最初の子供時代シーン(の由比・材木座には、原作に足りない鎌倉リアリティーがいとも簡単に実写でなら浮き出してます)からもう、私、「やっぱ、ハズレじゃなかった!」って微笑が湧いて仕方なかった。
福山さんには本当に申し訳ないけど、「あれだけ魅力薄だった漫画を、よくぞこれだけ素敵にメイクアップしてくれたね」って好感が水素風船みたく膨らんで、私はふわっと浮き立ったんだ。

ニノの中条あやみさん、厭味がぜんっぜんなかった。やたら彼女の口の中を覗かされた気はするけども、とにかく彼女、美貌をスクリーンごしにせっせと見せつけようなんていう邪(よこしま)には走らずに、至ってシンプルに「頑張り」だけで動いてくれた。こういう“出せるものを出しきろうとする”若い演技、私好き。彼女を信じながら観れたよ。そんな私、まちがってなかった。
それはね、モモにふられた彼女が悲しみをユズに訴える場面。それまで目薬使ってた中条さんが、この場面でだけはちょっぴり様子が異なった。白目に赤っぽさがあるのだ。「え……」と私、固唾をのんでたら、彼女の目から本物の涙が出てきたんだ。あれだけは、たぶん本物。
私、貰い泣き。。。。そこまでずっと中条さんの真剣さを信じてきてよかった。
次のカットでは再び目薬泣きに戻ってたけど、キスは牧歌的で正当で美しかった。

そして、ユズの志尊淳くん! 10年ぐらい前のキムタクに似てるね。似すぎてないとこがイイ。本物よりも小さくて喧嘩弱そうでオーラがないぶん、母性本能をくすぐるわ。
じつのところ前半の志尊くんは、中条さんの目や鼻の大きさに、横顔同士ではちょっと呑まれてたみたく引き立て役的だったけど、大見得切り(ギター対ベース)のところぐらいから、存在感が確立してきたみたい。ひたすらに爽やかに、目の前の演技にやっぱり全力をぶっつけてたね。
ただし、ギターをハイポジで弾く演出自体は「おー、しっかりやってる」だったんだけど、オルタナ系ベーシックをとりあえず強調した(?)低め重めのコードストロークばっかりのところで最初っからハイポジしてみせるんじゃなく、ロー主体からソロの時だけ下りていった方がもっとリアルだったと思うよ。正面向かずの時間が長いのは、ハンブルグ時代のスチュアート・サトクリフに倣ったゴマカシ?

モモの小関裕太さんは、偶然そうなったのか狙ったのかは知らないけど、韓流っぽい。それは作品世界へのどちらかというと素敵なアクセントになってた。
ややもすると最も嘘くさくなりかねない漫画風味をおそらくは求められたんであろうバンドメンバー役の、杉野遥亮くんと磯村勇斗くんも、与えられた役柄にマジメなフリーターたちのように紳士的に励んでた。彼ら次第ではB級映画になりかねなかったんだよ、うん、あまり巧くはないけどOK。

そして、何といっても、ライバル深桜を演じた真野恵理菜さんの、必要充分な麗しさ(清楚で安定感もある)!
真野さんと中条さんの、一見ヒヤヒヤさせる身長差が、チャーミングな空間を形成してたかも。腹筋や発声のところ、撮りようによってはクサくなりかねない場面なのに、余裕でセーフでした。

そういうわけで、キャスティングがほぼ満点!(漫画にとってはこの上ないウィンターギフトになったね、この映画が。)
同じキャスト&スタッフで『ピーチガール』もやってくれていればよかったのにな~。

不満点もまあ、いくつかある。
結末の前に、あと一つ二つ、葛藤が欲しかったかな。
それと、モモが作った「Find You」をエンドロールに使うのも確かに手だけど、それより、モモ自身(小関くん)が泣きながら江ノ電の小踏切の上でうずくまってそれを唄ってくれた方が、◎。
楽曲そのものは、(好みもあるけど)「Find You」「Close To Me」ともに、旋律的な決定力がない。一聴しただけで憶えてしまえるような超キャッチーなフレーズや三声コーラスアレンジが含まれてればな~。
それと、ギターソロ場面がやっぱ欲しかった。(手俳優使った吹き替えでいいから。)

由比ヶ浜って、いつでも人で一杯(特に夕日の時刻にはカップル率高まってみんな距離の取り合いにけっこう気を遣う。。。)だから、撮影すんのが大変だったと思う。
私も、東京人だけど歴代カレシとは休日デートの二回に一回は鎌倉や横須賀や横浜ばっかり行ってたもん。由比の砂浜にはもちろん字や絵をかきました。引っ掻き用の硬い海草の棒がいっぱいころがってる。
三木監督には、いつか“世界の小津”へのオマージュとなる北鎌倉(あじさい寺か何か)を舞台にした別の青春物も作ってほしいかも。