しゃび

散歩する侵略者のしゃびのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.0
「概念」という映画で表現するのがとても難しいテーマにあえて挑んだ作品。

真正面からぶつかったらおそらく、理屈っぽい駄作になるか、長尺な『世にも奇妙な物語』のようになるかどちらかだろう。
舞台・小説・映画と展開しているが、テーマとしては映画が1番難しいのではないだろうか。

本作では「概念を奪う」という宇宙人の設定自体をライトに描き、主題を別の部分に移すことでこの難題の解決を試みている。
逆に概念(性格に言うと概念の理解)を奪うという行為、奪われた状態について深く考えすぎないほうがいい映画でもある。そこを考えすぎると本旨を見失う。

どちらかというと、宇宙人のガイドは「信頼できるパートナー」であるという点の方に力点がおかれている。このルールこそがこの映画をエンターテイメント性の高いラブロマンス、人間ドラマに仕立て上げている。

2つのパートに分かれて話が進むが、宇宙人とパートナーの関係性の移り変わりがコンパクトに描写されており、非常に見応えがある。

また、役者陣が本当に良かった。
まず、松田龍平がこの映画の肝になっている。彼の動作から、この映画において宇宙人とはこういうイメージです、という像が私達に伝わる。彼の抜いた目、感情の定まらない会話、魂の抜けたような走り方から、私達は宇宙人を理解することができる。

また、恒松祐里が素晴らしい。唯一派手なアクションシーンを見せるキャラクターなのだが、動から静の間の取り方が非常にうまい。ここがスムーズなので、彼女が余裕で立ち回っているというのが観ている側にも伝わる。台詞回しも印象的で、個人的にこの映画で最も惹きつけられたキャラクターだった。


ネタバレ↓

ラストのイメージが印象的だった。
空が赤くなり火のようなものが降りてくる様子を2人が眺めているイメージで終わり。というのが、どちらかというと黒沢映画的だと思うのだが、今回はわざわざ2年後を描いている。21世紀も18年が過ぎ、うねりを乗り越えて前に向かって進み出している人間のイメージが黒沢監督にはあるのかもしれない。
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