りりー

ぼくの名前はズッキーニのりりーのレビュー・感想・評価

ぼくの名前はズッキーニ(2016年製作の映画)
4.3
東京アニメアワードフェスティバルにて鑑賞。今年のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされたストップモーションアニメーション。とっても良かった!

主人公・ズッキーニは、アルコール依存症の母親と二人で暮らしていたが、ある事情により養護施設に行くことになる。そこにはズッキーニ同様、さまざまな理由でやってきた少年少女が暮らしていた。話の内容だけならばひどく深刻だけれど、かわいいと不気味の境目を行ったり来たりするような独特の風貌の人形と、デフォルメされた背景により、柔らかで暖かな手触りが感じられる作品に仕上がっている。なによりストップモーションの作品でここまで表情豊かに撮れるとは!どう見てもアニメーションの画面なのに、時折実写を見ているような感覚になった。もはや実写とアニメーションは、表現方法の違いでしか(”実写/アニメーションでないと表現できない”なんてものは)ないのだな。

ズッキーニが母親の次に接することになる大人・レイモンドがあまりに真っ当な大人で、開始から10分足らずの彼の登場からすでに泣けてしまった。彼のキャラクターには、この作品の子供に対する態度が表れているように思ったから。その予感は最後まで裏切られることはなく、”子供は守られなくてはならない”という信念が作品全体に感じられ、安心して観ることができた。大人に事情があるように、子供にだって事情があり、それは尊重されるべきものなのだ。この誠実さは、同じく養護施設での出来事を描いた『ショート・ターム』に通じるものがあるように思う。
それぞれに事情はあれ、親と暮らすことができない子供たちは、施設の大人たちの愛情から”誰かを慈しむ”ということを学ぶ。おやすみのキスに、恋人同士のハグ、愛情は目に見えるということを。だから彼らは、いつか出会う恋しい誰かに、きっと愛情を表すことができるだろう。深刻な現実は変わらないとしても、ささやかな希望がそこかしこに浮かんでいる、そんな終わり方も誠実でよかった。

90分未満という短い尺ゆえに、子供たちは主要の三人の描写が多く、他の子のエピソードももっと観たかったな。ドラマでたっぷりと観たい。劇場公開しますように!
りりー

りりー