Masato

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのMasatoのレビュー・感想・評価

4.3

ナンシーケリガンを襲撃したとして有名なトーニャハーディングの半生を描くコメディドラマ

救われない話ですが、コミカルかつスピーディで失速せず突き抜ける快作でした。あまりコメディに極振りしてしまうとふざけた感じになってしまうので、程よくコミカルで良い塩梅だった。

全体的にディカプーの「ウルフオブウォールストリート」に似ている。ただ似ているだけでなく、演出までも似ている。「第四の壁」を壊してカメラに向かって話しかけてくるシーンなんかまさにそれ。他にも、「羅生門」のような、証言をそのまま映像化したりする演出など、細かいところに粋があって面白かった。証言を映像化する時はワイドに、証言をする時は4:3のアナログのアスペクト比にして懐かしさを演出しながら、分かりやすくしているところも良かった。音楽や服装に関しては、80〜90年代ぽくてすごく好みだった。

とにかく放つ言葉が暴言ばかりで、見ていて痛快だし笑える。特にアリソンジャネイ演じるお母さんの暴言のキレの良さが半端ではない。オスカーを獲れたのも頷ける演技。魔法のFワードは勿論、Cuntも使う。汚い言葉(英語)を聞き取れるようにするとこの映画は尚おもしろい。

この映画に出てくる男はだいたいクズかアホばかり。トーニャは才能があったけど、徹底的にしごかれた人生のせいで傲慢になってしまい、お母さんは鬼畜だったけど、1番トーニャを知り尽くしていたし、愛していたし、信じていた。嫌われ役まで買った。そういう、完璧な人間なんていなく、どこかが良くてどこかがダメなところが人間くさくて良い。でもやはり、つくづくトーニャハーディングは男に関しては恵まれてなかったんだなと思ってしまう。


私が感じたこの映画の大きなテーマは2つ。

1つはトーニャという人物像に象徴される「アメリカ」
一般的に裕福な家庭でしかできないと言われているスケートを、「レッドネック」、「ホワイトトラッシュ」(字幕では貧乏とか白人のクソと訳されている)と蔑称されるほどの貧困家庭の娘がトップに君臨する。しかし、スケートの審判はそれを世界に披露するアメリカ像とは違うと言う。完璧な家族を象徴させたいと言う。わたしは、さまざまなトラブルを乗り越えて、底辺から成り上がる様こそ、「アメリカン・ドリーム」の「アメリカ」らしさを感じる。そもそも、完璧なんて存在しない。この映画は、まるでこのトーニャこそが「アメリカ」そのものだろう!と言うようだった。わたしもこの人こそが「アメリカ」そのものだと感じる。そういったアメリカ像とは?を突きつけてくる。

もう一つは、黒澤明監督の「羅生門」にも共通するテーマ。事前に羅生門を見て本作を鑑賞したのだが、見てからだとよりテーマがわかりやすいかもしれない。
「あくまでも各個人の証言に基づいた映画である。」
本作は「実話」とは言い切れない部分があるということだ。「真実」と謳って語る数ほど真実が存在する。だから、本当の真実なんて誰にも分かりゃしないのだ。本作は、「トーニャの真実」が語られる。「真実」という言葉の曖昧さ、危険性が感じられた。

キャストに関して、マーゴットロビーはアイドル感を脱却するために自らプロデュースをして演技派のイメージをつけようとしたそうだ。彼女の演技力は素晴らしく、また助演のアリソンジャネイも前述した通り素晴らしかった。あともう一人、トーニャよ幼少期を演じたマッケンナ・グレイス。ギフテッドの時も素晴らしかったが、この子はほかの子役とは逸脱したオーラと演技力がある。将来大物になるに違いないと断言できる。


余談、現在、70ー80年代あたりの雰囲気が好まれているのは、現代のデジタルの尖った雰囲気の反動ではないだろうか。丸みを帯びているアナログの時代に回帰するように人気になっているのかもしれない。音楽の音質が1番わかりやすいかもしれない。MP3,FLACよりもレコードが良いみたいなあの感覚だ。
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