さいごん

お米とおっぱい。のさいごんのレビュー・感想・評価

お米とおっぱい。(2011年製作の映画)
3.2
カメラを止めるなの上田監督の最初の長編映画...のはず。
作りとしては三谷幸喜脚本の「12人の優しい日本人」のパロディもしくはオマージュ映画で、お米とおっぱいのどちらかが世界から無くなるならどちらを残すか議論するという密室会話劇。
部屋の感じや人物や台詞や音楽まで引用している箇所は多い。
(ちなみに言うまでもなく三谷作品もシドニールメットの「十二人の怒れる男」のパロディ)

さて、結論から言えばつまらなかった。
まず最も目に見えてつまらない原因は話が一向に前に進んで行かないところ。
元ネタの「12人〜」は裁判員制度の話で有罪か無罪かを議論するのだけれど、とにかく早い展開で話を転がしていき観客も劇中の裁判員同様に有罪と無罪の間を往復させられる。
それがこの映画だと一度お米派についた人はずっとお米派でおっぱい派はおっぱい派というようにほとんど行ったり来たりをさせてくれない。

何故そっち派なのかというところも議論でそうなったわけではなく、その人の過去の出来事や性質からそっち派だったんだよという回収の仕方をするのも非常に上手くない。
じゃあ今までの議論は無駄だったのねとなってしまう。
この映画を見る人がどこまで真剣に自分ならどっち派だろうと考えながら見るか分からないけれど、少なくともこちらの価値観を揺るがす程の議論は最低限必要だったように思う。

あとは「12人の〜」が殺人事件の有罪か無罪かを決めるという緊張感のある中でのやり取りの面白さだったものが、この映画では最初から目的のないくだらない議論でしかないので、話としての推進力もコメディとしての面白さも極端に弱まっている。
そのため「ちゃんと話し合いをしましょう!」と繰り返す人物の動機もハッキリ薄まっているし余計に話に乗れなくなる。

12人の優しい日本人が元の映画から当時の日本向けに脚色したものであって、上手くいっているところといっていないと思うところもありつつも特にタイトルの改変に伴うあの結論は素直に感心したし十分に意義のある作品だったと思う。
じゃあ更に脚色したこの映画がもっと良くなっているかと言えば首をひねらざるを得ない。

縦軸だけでなく横軸で見ても同年にはポランスキーの「おとなのけんか」が公開されているわけで、まぁ流石に比べるのは酷かとは思うけど比べるとなんだかなぁ感が拭えなかった。
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