さいごん

偶然と想像のさいごんのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.9
あ、これは好き。
「ドライブ・マイ・カー」→「ハッピーアワー」に続き濱口監督作品3作目の鑑賞ですが、自分には1番ちょうどいいと感じた作品でした。
なんとなくミュージシャンで思い浮かんだのはSteely Danとか冨田ラボとか。
職人的な作り手が作った間口広めの作品って大好きなんですね。

まずは本作は先に見た2本と比べ明らかに難解さがなく、とにかく分かりやすい作品。
言っちゃえば世にも奇妙な〜とか星新一のショートショートを見るくらい軽い気持ちで見られる。
でもこの映画の面白さは「実は○○が○○だった」みたいなオチ一発の面白さではなく、そこを発端とする映画としてのカタルシスそのもの!
簡潔に言うなら、難解さはないが深みと濱口作品らしさはちゃんとある。

会話劇ではあるんだけど、言葉それ自体の面白さではなくそこを通して浮き出てくる2人の距離感やその人自身を表している事が面白いというのが実に映画的。
淡々とした場面に見えても立ち位置やカメラワークといった映像的な面白さが随所に散りばめられているし。

で、物語としては3話目が1番良かったかな。
1話目と2話目は骨格が似ている話がどこかにあったとしても3話目はこの設定で面白く出来る人は早々いないと思う。
そもそもかなり変化球な展開をする話なので3話目単体だけ取り出したら割と現実離れしすぎていて受け入れづらい話ではある。
だけど1話目2話目と段階を踏む事でこちらも色々な事を許容する準備をしちゃっているので不思議と成り立ってしまっている。

でも演者さんで言うと個人的には1話目の古川琴音さんがダントツで好き。
本人の喋り方とか佇まいの濱口作品へのハマり方がエグいレベルだと思っていて、街の上での好演すら超えてしまった感が凄い。
その魅力1つでお話の面白さがグッと上げている1話目も捨てがたい。

もちろん2話目も朗読の場面とか良かったし、つまりは結局3話をまとめたこの短編集が凄く好き。
誰かと映画の話になった時はしばらくはこの映画の名前を1番最初にあげるだろうなぁ。
自分も好きだし、皆も多分好きというここまでちょうどいい塩梅の映画には久しぶりに出会った気がします。
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