しゃび

三度目の殺人のしゃびのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
2.0

「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。」

ニーチェがこんなことを言っていたのを思い出した。

成熟した社会において、ルールとは公共的な利益を叶える手段として存在する。1人の利益の為に多数の不利益が生じないように、また自らの利益の為だけを考えて行動させないよう法律やマナー、道徳というものがある。
しかし、これには弱点がある。社会の構成員1人1人がある程度の振り幅で、その社会にとっての常識的なロジックを持っていることが、前提になっているという点だ。

この物語はその前提を持たない男と前提に翻弄された男の物語である。
後者であるところの重盛がいわゆる社会の投影役にもなっている。



ここから先、批判的なことも書いているので、是枝監督のファンの方は読まれない方がいいかもしれません…

正直なところ、前半のうちに分かってしまう話の答え合わせを後半1時間以上かけて見せられているような印象だった。一瞬もしかして違うの?と思わせる箇所がないわけではないが、結局予想通りのところに落ち着く。

シナリオ的な魅力は一切感じなかった(あくまで個人の感想なのでご了承を…)。是枝監督の思惑が終始透けて見えてしまう話で、もしかして是枝監督に対するこちらのイメージを逆手に取った、どんでん返しがあるのかと勘ぐってしまうくらい。その上、訴えたいが為だけのシーンを作っているので、映画のリズムを著しく悪くしている。

もしかしたら予定調和を意図しての作品なのかもしれない。ただ、だとしてもその問いかけ自体が、既知の社会における負の側面であるということ以上に深く胸に刺さるものがない。


とここまで悪いことばかり書いてしまったが、
しかしそれでもこの映画を魅力的なものとして繋ぎとめているものがある。役所広司と広瀬すずという2人の稀有な俳優の演技である。

役所広司のどこか空虚でありながら、いろいろと見るものに考えさせる余力を与える演技。今回の役にもピタリとハマっているし、接見室での人間ドラマを何段階も魅力的なものにしている。

また、広瀬すずは我々が見ることのできない、画面の外に対する興味をひたすら引き立たせてくれる女優である。
分かりやすい視線の先があるわけではない。しかし、どこという訳でもなく宙を見つめている訳でもない。対象はないが確かに何かをすっと見つめているような視線の配り方。
広瀬すずは四角く切り取られた空間を1段階深くすることができる、不思議な魅力のある女優さんだと思う。
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