めしいらず

羅生門のめしいらずのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.2
森の中の殺人。もちろんそこで起きた"事実"は一つである。ところが裁きの場に集められた目撃者や容疑者たち、更には殺された当人(の霊魂)が語った証言は、それぞれがまるっきり食い違う。当事者たちに嘘をついている意識はなく、皆が自分が見た"事実"そのものを語っているつもりているが、その実、己の不都合にならぬように無意識のうちに少しずつ事実をねじ曲げ脚色しそれが実際に起きたことだと信じ込んでいる。それこそが"真実"というものなのである。斯様に人間というものは必然的に自分自身に都合良くしか物事を見られない。つまりは"事実"は一つしかないけれど、"真実"となるとそれを語った人の数だけあるのだ。浅ましい人間の生態を観念的に描いた芥川「藪の中」を見事に映画に置き換えて見せた黒澤芸術の最初の到達点だろう。個人的には被害者の霊魂を巫女に憑依させて証言させる可笑しみと、その証言内容の禍々しさの対比が印象的。映像の美しさについては言わずもがなか。
再鑑賞。
めしいらず

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