高橋

サスペリアの高橋のレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
4.0
 ルカ・グァダニーノ監督の映画をいままで見たことがなかったが、かれはもとの『サスペリア』の監督であるダリオ・アルジェントよりもはるかにすばらしい監督であると感じられた。アルジェントの『サスペリア』は、原色的な照明によって個性を表現して「芸術」的ではあるが、「映画」的な感動は少ないのである。
 もう一度見て、その後改めて書き直すとおもうので、以下、現時点で感じたことを列挙しておく。

・序盤でクロエ・グレース・モレッツが精神医の男を訪ねるシーンは、かなりカット割りが多く複雑であるのだが、ここではある動作を異なる角度から撮ったショットを短く連続して映すことで、ふいに誰のものか不明な視点が挿入されたように感じられ、どこか不穏である。ただクロエ・グレース・モレッツが不安定であることを、カット割りの多さによって表現しているだけではないとおもわれる。

・ダコタ・ジョンソンが初登場する駅ホームのショットでは、その前のショットで病でベッドに横になっている女性の呼吸音がずり下げられており、これによってダコタ・ジョンソンはすでにどこか怖ろしい。

・身振りは、運動を捉える映画にとって重要な要素であるが、今回の『サスペリア』は、アルジェント版とちがって、バレーの踊りを儀式として扱うことで、運動が事件性を帯びている。

・サラを演じるミア・ゴスが隠し部屋でクロエ・グレース・モレッツを見つけるシーンで、だれかが廊下の奥から這いながら近づいてくるショットがあるのだが、これが怖い。画面手前にミア・ゴスとクロエを配置して、奥にこの怪物が近づいてくる姿を映した撮り方もすばらしいが、身振りそのものが怖い。

・ダコタ・ジョンソンとティルダ・スウィントンの関係は、度々の接触や、レストランでほかの者たちが騒いでいるなかでその一切を気にかけずに見つめあうふたりの視線によって、表現されている。

・「分裂」や「分断」のモチーフがいくつか登場し、その類似によって豊かさを獲得している。魔女の分裂、ドイツの政治的分裂、ベルリンの壁、精神医の男とその妻の分断など。ドイツ赤軍によるハイジャック事件を伝えるラジオの音声やテレビの映像をところどころで挟みこむことで、時間経過をそれとなく感じさせると同時に、「分裂」の類似するイメージは緩やかにまとめられている。
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