高橋

グリーンブックの高橋のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.0
黒人ピアニストを演じるマーシャラ・アリの社会との距離というか、孤独は、序盤のヴィゴ・モーテンセンと初めて対面するシーンでは、カーネギー・ホールの上階に位置するという妙に広い部屋の奥に置かれているピアノの黒や、かれが座る王座とヴィゴが座る椅子との高さ方向における微妙な距離から感じられ、おそらくその孤独は、旅にでて最初に泊まるホテルでのヴィゴの見た目のショットによって、明らかになるだろう。ヴィゴは、トリオの他のふたりが女性がふたりと談笑しているホテルの中庭に面した部屋のベランダで、アリがひとり酒を飲んでいるのを目撃するからである。このショットでは、アリの他人との距離がそのままヴィゴとの距離でもあるが痛々しく感じられる。
しかし、ひとたび車での移動のシーンとなると、カメラは助手席の前あたりから、運転するヴィゴと後部座席の座るアリを同一のショットのなかで捉え、会話をするふたりの視線はバックミラーに注がれることで距離を共有しはじめ、いつの間にかケンタッキー・フライドチキンを仲良く食べるほどに連帯が生まれるに至るのだから、ロードムービーというのは不思議な映画である。
また、この映画の光もすばらしい。たとえば、雨が降って濡れたアスファルトの美しさ、あるいはヴィゴとアリが唯一同じホテルの一室に泊まることになるシーンで、ベッドに横になったヴィゴに注がれるグリーンの光。とくに終盤、雪の降るクリスマスの日に、ヴィゴとアリが乗る車はパトカーに停まるように指示されるが、そのとき車を停めた場所にある街灯の優しげな白い光は、クリスマスにふさわしくふたりを祝福しているようである。だから当然のように、そのパトカーの白人警官は黒人のアリを差別しようともしないし、ただ後ろのタイヤがパンクしていることを告げ、最後にはメリークリスマスといって去っていくのである。
高橋

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