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DESTINY 鎌倉ものがたりのdm10foreverのレビュー・感想・評価

DESTINY 鎌倉ものがたり(2017年製作の映画)
4.0
【アイノカタチ】

僕は鎌倉に行った事がないので、果たしてこの作品に映し出される風景や町並み、雰囲気が「鎌倉感」を出しているのかという点では評価が出来ませんが、どこか時代設定を狂わせているというか、「今のようで今じゃない」「ここのようでここじゃない」一種のパレルルワールドを覗き込んでしまったかのような不思議な感覚の作品でした。
観ていると「携帯電話」や「地デジテレビ」などいわゆる「近代的なもの」は一切出てきませんが、かといって監督の得意な『昭和設定』かといえば、一番最初の「新婚旅行が終わって家に帰る途中」で一瞬映る若いカップルが背負っているリュックは比較的新しいタイプの形だったりと・・・どういう視点で観るべきか?それとも「鎌倉ってそういう不思議な場所なのよ」と早めに設定を飲み込むべしというポイントに立たされたか?と、最初から変なところで躓き・・・。

まことさんのレヴューでもありましたが「実写版ジブリ」という表現はひょっとしたら的確なのかなと思いました。まさに「ここであってここでない」という現実とファンタジーの間を行ったり来たりするような感じはジブリ作品のそれと似ている部分があると思いながら観ていました。

でね、いろいろ言いたい事はある作品なのですが、やはり特筆は「高畑充希の破壊力」ですね。正直言って、これまでそんなに可愛いとは思ったことなかったんです。いえいえ誤解のないように言いますと、可愛いんですが「これ!」という秀でたものが僕にはわからなくて、最近の若手女優さんの中の一人くらいでしかなかったんです。
 それがですよ、この作品の彼女の泣いたり笑ったり怒ったり、その全てが可愛い。「あれ?こんな表情する子なんだ」って思ったらグイグイ惹かれてしまいましたね。ワンダーウーマンのガル・ガドットよろしく、高畑充希を愛でる作品と言っても過言ではないくらいですね(いや、さすがにそれは過言)。

とにかく一色先生(堺雅人)と亜紀子(高畑充希)の雰囲気がいい。観ていて温かい感じになれる「夫婦」を演じていた。堺正人の若干演技臭が強すぎる瞬間は「そういうものだ」と事前に心構えをしたうえでの鑑賞であったためそれほど気にもならず、寧ろその辺を加味した二人の距離感は会話のシーンなどは「アドリブか?」と思えるくらい自然で、本当の夫婦のように相手の位置や考え方がわかっているような雰囲気さえ伝わってきた。

実はこの映画が凄く好きになった点。それはこの二人だけではなく、様々な登場人物を通して「色んな家族の愛の形」が描かれていたことだった。
主人公の二人のようにラブラブな愛の形もあるだろう。
吉行和子と橋爪功の『家族はつらいよコンビ』による人生の晩年をお互い想いやるという姿もあるだろう。
本田さんのように志半ばで若い奥さんと幼い娘を残して先立ってしまうという不幸を必死に受け止め、それでも二人の幸せを心から願うというのも愛だと思う。
そして・・・実はストーリー的にはあまり触れられてはいないけど、物語中盤で「亜紀子のカラダ」を間借りして、一時的に家族と最後の時間を過ごしていた母親と娘、旦那。
展開的には「あんたたちのせいで亜紀子は~!」みたいなこっち側の気持ちで描かれていたんだけど、方や観ている僕は全く違う視点でこのシーンを見ていた。
一色先生に怒鳴られた母親は土下座をして「申し訳ございません」と涙ながらに謝ります。すると横にいた娘と夫も「すみませんでした!」と一緒に土下座をして謝ります。
シーンはここで終わります。

・・・あのあと、あの親子ってどうなったんだろう。
お母さんは亜紀子にカラダを返して、自分は魂となって成仏してしまう。そして娘はそうなるとわかっていながら一色先生に「ごめんなさい」と謝った。わがままも泣き言も一言も言わずにただ謝りました。それはもうお母さんと今生の別れになることはわかっているのに・・・。
なんかね、僕はそっちのメッセージを受け取っちゃったんですね。で、涙が止まらなかった。上手く説明できないけど、ちょっとでもお母さんに「再会」出来てよかったと思えるのか、2度も別れを経験しなければならないのか、なんか色んな思いがこみ上げてきて「ブワッと」泣けましたね。

いろんな人がいて、いろんなコミュニティーがあって、そこにいろんな愛の形があって、どれも正解も間違いもなくて、誰も否定も肯定も出来なくて、でもほんにんたちにとっては自分の命よりも大事なもの。

実はこの映画ってとても重くて深いテーマなんです。ガチで作ればボロボロ泣いてしまう類の作品なんです。でもそこに「ファンタジー」というエッセンスを加えたことで、重くなりすぎず、幅広い人にメッセージを届けることが出来るつくりになっていました。その辺はとても見事だと思います。
きっと、画面に妖怪を出すことをメインにしたらこの映画は多分コケました。あくまでも愛の物語の過程で「不思議なこともあるんだよ」という話のエッセンス程度に妖怪を使ったから「いい塩梅」で物語のバランスが取れたんだと思います。

個人的には死神役の安藤サクラさんはピンポイントではまりました。彼女が「リアル」と「ファンタジー」の橋渡し役をみごとに演じきってましたね。コミカルなんだけどポイントはちゃんと心得ているって感じで。

あと、ちょこちょこと挟んでいる小ネタにもニヤニヤしてしまいました。
先にも触れましたが「家族はつらいよ」で喧嘩もするけど・・・みたいな夫婦役を演じている吉行和子さんと橋爪功さんが年老いた夫婦役で出ているというのも何かしらの意図を感じましたし、DoCoMoのCMでイチャついているキャップと部下を演じている堤真一と高畑充希が共演していたり・・・

中村玉緒さんは久しぶりに観ましたが、いい年の取り方をされましたね。台詞や立ち居振る舞いはシュッとしていて年齢を感じさせないオーラのような雰囲気がありましたね。

全体的にコミカルな作りにはなっていますが、実は序盤から伏線がちょいちょい放り込まれているので、それを拾いながら最後まで見ていくと「あ、そういうことか」とスッキリさせてくれる展開もあり。
観終わった後に優しい気持ちになれる映画ですね。お子さんでもきっと楽しめると思います。
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