ハートブレイカー

アフターマスのハートブレイカーのネタバレレビュー・内容・結末

アフターマス(2016年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

邦題:アフターマス
原題:Aftermath

本当に良い映画だった。

実際に起こった飛行機事故とその“余波”(Aftermath)を題材にした映画だということは知っていたので、冒頭のローマン(シュワルツェネッガー)がウッキウキで風呂に入ったり飾り付けしたりしているシーンで既にこの後に起こる事が分かっている為、胸が張り裂けそうになるくらい辛かった。
工事現場の現場監督の仕事をし、誰からも信頼されているローマン。
何十年も職人として生きてきて、おそらく部屋の飾り付けなどやった事もなかったであろうローマンが、愛する妻と娘と、もうすぐ生まれる孫のために頑張って飾り付けをした家で買っておいたベビーベッドを揺らしてニッコリと笑う。
慣れない飾り付けでWELCOMEの文字がきちんと留まっておらず、外れているのを直したりして、帰ってきた娘に「パパ~!この飾り付けはパパがやったの!?」「そうなんだ!頑張ったんだぞ!」なんてやり取りをしたかったのだろう。

空港に行き、別室に案内される時に女性係員が精一杯の作り笑顔の中に一瞬見せる「あっ・・・」という表情と直後に男性係員を一瞬チラッと見る顔。
もう何かただならぬ事態が起こったことを物語っていて怖いやら辛いやら。
別室に案内されるだなんてどう考えても何か嫌な事が起こったに違いない・・・と本当は分かっているのに認めたくないローマンの「妻と娘の渡航書類は弁護士に頼んだから大丈夫なはず」と言うセリフでもまた胸が張り裂けそうになった。
別室に案内される途中で同じく家族が同機に乗っていたであろう男性とすれ違い、その表情からのただならぬ事を感じていながらも、それでもまだ信じたくない認めたくないローマンは笑顔を必死に作って「それで、飛行機はもう到着しているのか?」と聞く。
この、同じ状況下の男性とすれ違う時に、ローマンを案内する女性係員が、男性係員とアイコンタクトをとる瞬間に作り笑顔が消えて一瞬真顔になる。それはローマンからは見えておらず、さらにカメラのピントが合っていない一瞬の事ではあるが、見ている側には十二分に不穏な空気を伝える。
そして事実を知らされ、隣の部屋から聞こえてくる慟哭で「自分以外にも同じ経験をしている人がいる」という事でさらに現実味が増し、気絶してしまう。

とにかく冒頭からずっと、本当にあまりにも辛い物語が続く。


一方、この事故を起こす原因となった航空管制官ジェイク(スクート・マクネイリー)側も、本当に善良な一市民であることがしっかり演出されている。
管制官は2人体制でなければならないのに、1人でやらされていたり、電話機器の修理工事が入っていたりなど、ジェイク1人の責任ではないことは明白だが、ジェイクのせいで起こった事もまた明白な不幸な事故。
レーダから2機が消えた瞬間の「え・・・っ」という間が逆に怖さを引き立てた。

最終的にローマンはジェイクをナイフで刺殺してしまうが、それに至る過程も両者共にきちんと描かれていて、ほんの少しでも違っていたら起こらなかった出来事だったが、しかし起こるべくして起こってしまった“余波”であると説得力があった。

自分の行動に対して「ボクは悪くない」と言って殺されたジェイクとは対象的に、「本当に申し訳ないことをした」と言って生かされたローマンの対比も辛かった。
もしジェイクが写真を見て誠心誠意誤っていれば殺されることはなかっただろう。


シュワルツェネッガーはただの筋肉俳優ではなく、本当に表情だけでも伝えられる良い役者だと感じたし、スクート・マクネイリー(バットマンvスーパーマンのアイツでもおなじみ)の善良な一般人が重大な事故を起こして心が砕け散ってしまった様子の演技も本当に素晴らしい。
ローマンに和解を提案する弁護士達のムカつく演技、ローマンについうっかり「妻が~云々」と言ってしまって口籠る隣人。
そして前述の通り、役名もないようなモブの空港係員の演技にさえもしっかりと演出が行き届いているのが本当に素晴らしいと思った。

そう言えば、シュワルツェネッガーは、娘がどんどんゾンビになっていってしまう父親の苦悩を描いた『マギー』でも似たような辛さをしっかり表情で演じていたなと思い出した。
(マギーという映画自体はあまり面白くなかったが)

本作は、興行収入を見ると物凄く大コケしていて大赤字を出している映画ではあるが、個人的にはクオリティの高いきちんとした映画だと感じた。