SHIMABOO

マザー!のSHIMABOOのレビュー・感想・評価

マザー!(2017年製作の映画)
4.5
 初め足元にあったのは、小さな小さな裂け目。それが物語が進むにつれ、どんどん大きくなっていき、巨大なクレバスが現れる。立っていられなくなり落っこちる。落ちた後もどんどん裂け目は大きくなり、無限に奈落の底へと落ちてゆく……

 『ローズマリーの赤ちゃん』がまだ可愛い方だと思える。寓話的な飛躍を盛り込みつつも、これはあくまで日常である。観客にとって「SFだから」「ファンタジーだから」などという逃げ道は無く、これを観て癒しや救いを得ることは決してかなわない(いわんや登場人物をや!)。これでもかと執拗に、異物に侵されてゆく愛の巣。逃げ場はもうどこにも残されていない。出来ることは、目の前の悪夢にただ我が身を晒すことのみである。狂騒がピークに達するところで、彼らを、異物というよりも人類(愚民というべき?)に一般化しようとする作者の寓意が読み取れるようになる。スクリーン上の悪行が、観ている側へと直接反射されることによるたとえようもない嫌悪感。我々は当然「mother」という人格に感情移入するよう観ているのに、彼女に対する悪というのが実は我々だったという、監督の悪意を反映した二重構造。これこそが、この映画の後味の悪さの原因ではないだろうか?

 各部にわたってダーレン・アロノフスキーの気が利いた(?)不快な、不快~な演出がギンギンに研ぎ澄まされた逸品。どう考えても娯楽映画ではないし、人によっては”嫌いな映画”になりかねないだろう(そっちの方が普通かも?)。むしろ映画を観て留飲を下げたくない、安っぽいカタルシスなんかいらね、オラいや~な思いになりたいンだよという奇特な方にはおススメ。
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